作品タイトル不明
786話 崩壊の序曲
王都を守護する結界が消えた。
羊が狼の群れの中に放り出されたようなもの。
すぐに魔物が襲ってくるだろう。
でも、アリオスの狙いは他にあって……
「これで僕は本気を出すことができるし、そして、連れも暴れることができる」
そんなアリオスの言葉を合図にしたかのように、離れたところからプレッシャーを感じた。
迸る魔力が圧となり、空気が悲鳴をあげているかのようだ。
しかも、それは一つじゃない。
王都のあちらこちらから強い魔力を感じる。
「これは……魔族か!?」
「正解」
一体、二体どころじゃない。
この反応、感覚……十を超えている。
それだけの魔族が王都に潜んでいた?
結界が破壊されるのを待っていて……そして、一気に行動を起こした?
「ついでに言うと、魔族だけじゃない」
「なに……?」
「ちょっとした裏技があってね。魔物を呼び寄せることができるんだ。今頃、門の近くでは戦闘が起きているんじゃないかな?」
アリオスは笑みを浮かべつつ、しかし、淡々と言う。
魔族のこと、魔物のこと。
彼にとって、それらはわりとどうでもいいらしい。
現状を説明するだけで、特に楽しんでいる様子はない。
「貴様は、元勇者のアリオス・オーランドだな?」
ココロさまがアリオスに杖を向ける。
先端に魔力の輝きが宿り、いつでも魔法を撃つことができる状態だ。
「元勇者ともあろう者が、本当に魔族になっているとはな」
「なにか問題が?」
「……今すぐに魔族、魔物達を連れて失せろ」
「それは命令かな?」
「もちろん。従わない場合はここで殺す」
王女らしからぬ苛烈な言葉だ。
ただ、ココロさまは本気だろう。
その鋭い目が嘘やハッタリではないということを示していた。
「悪いが、それはできない相談だ」
「そうか、ならば死ね。イグニ―トランス」
ココロさまは迷うことなく魔法を放つ。
業火の槍がアリオスに向けて飛翔するが、しかし、その手前で霧散してしまう。
こんな事態を想定して、あらかじめ防御魔法を展開させていたのだろう。
「やれやれ、物騒な王女さまだ」
「問題が起きた。なら、元凶を叩く。至極単純な話だろう?」
「その認識は間違っているね。そもそもの話、今回の事件、僕は元凶というべき存在じゃないよ」
なんだって?
「僕は僕で、別にやりたいことがあってね。目的がうまく噛み合ったから、こうして協力をしているだけなんだ」
「アリオス、どういうことだ? それなら、魔族や魔物達は……」
「彼女が望んでやっていることさ」
彼女というのは……
もしかして、モニカのことか?
それともリース?
「だから、僕は魔族や魔物を止める術を持たない。というか……彼女もそんなことはできないだろうね。ほら。放火をした場合、激しく燃え広がった後に犯人の意思で消火をするなんてこと、できないだろう? それと同じさ。一度燃え広がった火はどんどん大きくなるだけ。やがて……全てを灰にする」
「そのようなこと、私がさせると思うか?」
「さてね。阻止されるか、彼女の望みが叶うか。そこはわからない。正直な話、僕はどちらでもいい」
「なんだと……?」
「言っただろう? 僕の目的は別にある」
アリオスがゆっくりとこちらを見た。
魔族になったアリオスは、片方の瞳が宝石のように赤く輝いている。
血を連想させる深い深い赤だ。
その瞳が俺を捉える。
まっすぐに、じっと。
「君だよ、レイン」
「俺……?」
「君と決着をつけることが僕の望みだ。だから……」
アリオスは拳サイズの水晶玉らしきものを取り出した。
「始めようか。終わりの始まりを」
「っ!?」
水晶玉らしきものが輝いて、場を白に染める。
そして……