作品タイトル不明
785話 姉王女
戦況はこちらに傾いていた。
次々と騎士を打ち倒して、無力化していく。
敵の切り札であるサーリャさまは、リファがしっかりと保護していた。
二頭の狼と共に守り、鉄壁のガードを見せている。
取り返すことは不可能だろう。
「こ、このようなことが……」
ジャイルの顔が屈辱に歪む。
それでも次の策が出てこないところを見ると、もう打ち止めなのだろう。
彼の前に立ち、クサナギを突きつける。
「終わりだ」
「ぐっ……」
ジャイルはこちらを睨みつけて……
しかし、すぐに余裕を取り戻した様子で笑う。
「ふ、はははっ……これで勝ったと思っているのか? 我々の心をくじいたと思っているのか? 否、決して否だ! どのような目に合おうと、我々が諦めることはない。負けることはない。必ず勝つのだ!」
ジャイルの言葉に奮起するかのように、倒れていた騎士達がいくらか立ち上がる。
満身創痍のはずなのに、武器を取り、構える。
こんな状態でなにができる?
なにもできないはずだ。
ただ、不気味なものを感じた。
切り札は全て切ったと思っていたが、もしかしたらまだ……?
「王都の外にいる部隊は陽動ではあるが、しかし、次策を抱えている。いくつもの切り札を持っている。彼らが、あるいは王を討ち取ってくれれば……」
「それはないな」
ふと、第三者の声が乱入した。
その声は透き通るようにとても綺麗だ。
戦場となった街の中をすぅっと駆け抜けて、みんなの耳に届く。
「外の部隊ならばすでに対処を終えている」
姿を見せたのは、いくらかの女騎士を率いた女性だ。
白銀の甲冑に包まれた体は芸術品のように綺麗だ。
白い肌は陶器のよう。
流れる銀色の髪はシルクのよう。
そして、燃えるような赤い瞳。
何者にも屈しない強い意思を感じられた。
彼女は、先端に水晶がとりつけられた杖を持ち、その先をジャイルに向ける。
「バインド」
その一言で拘束魔法が発動した。
ジャイルだけではなくて、立ち上がった騎士達、全てが光で拘束される。
詠唱速度もさることながら、その威力も完璧。
並外れた魔法使いだ。
彼女を見てジャイルが慌てる。
「バカな!? なぜ貴様がここにいる!? 貴様は外で戦っているのではないのか!?」
「お前の耳は飾りか? 外の部隊ならすでに対処したと説明しただろう」
「ありえない、ありえんぞ! 陽動とはいえ、かなりの数を用意した。切り札もいくつも授けた。それなのに、こんな短時間で敗れるわけが……」
「はっ。あのような雑魚、この私の敵ではない。国を背負って立つ第一王女を舐めるなよ?」
第一王女?
ということは、もしかして……
「あなたが、ユウキやサーリャさまの……姉王女、ですか?」
ついつい、そんな言葉がこぼれてしまう。
それでこちらに気づいたらしく、彼女の視線が俺に向いた。
「む? そういう貴様は、もしかしてレイン・シュラウドか?」
「あ、はい。はじめまして」
「そうか、そうか。弟や妹から聞いているぞ。私は、ココロ・ヴァン・ロールリーズ。この国の第一王女だ」
やっぱりだった。
でも、なんだか妙に癖のある性格をしているような……?
王族は変わった人が多いのだろうか?
それとも、あの王の娘だから?
……などと、少し失礼なことを考えてしまう。
「本来なら色々な話をしたいが……」
ココロさまの視線がジャイルに戻る。
「今は事件を収めることが先決だな」
「そうですね」
「ばかな……このようなところで、私の崇高な目的が、計画が……」
ココロさまの出現で、ジャイルの心は完全に折れてしまったみたいだ。
がくりと膝をついて、ぶつぶつとつぶやきをこぼしている。
終わりだな。
今度こそ、決着がついたみたいだ。
ジャイルはこれ以上抵抗することはできない。
騎士達と一緒に拘束して、それから……
……いや、待て。
まだ終わっていない。
今回の事件、裏でアリオスが関わっていたはずだ。
あるいは、モニカやリースも。
彼らの姿がまったく見えない。
この事件を起こすことだけが目的とは思えない。
なら、ヤツの真の目的は……
「さすがだね、レイン」
再び第三者の声が乱入した。
その声の主は……
「アリオス!」
いつの間にそこに移動したのか、アリオスの姿が教会の前にあった。
「もう少し苦戦すると思っていたんだけど、こうも簡単にしのいでしまうとは。やれやれ、僕の見立ても甘いな。もっと優れた観察眼を身に着けないと」
「……今回の事件、裏で糸を引いていたのはお前だな?」
「ああ、その通りだよ。そして……」
「まだ終わっていない」という言葉と共に、アリオスは、そっと教会に手の平をつけた。
ぞわっと、嫌な予感が極限まで膨らむ。
「まっ……!?」
「ナイトメアボルト」
瞬間、黒い稲妻が炸裂した。
龍のごとく荒れ狂い、天に向かって昇る。
教会は……粉々に砕け散っていた。
結界の問題がある。
でも、それだけじゃなくて、中には人がいたはずなのに……
「なんてことを……」
「悪いね。僕の目的に無差別殺人は含まれていないんだけど、わざわざ避難させていたら不意打ちにならないからね。こうさせてもらったよ」
「お前は……!」
「さあ」
アリオスは笑みを浮かべた。
「終わりの始まりだ」