作品タイトル不明
784話 勝つためならば
サーリャさまは手を後ろに拘束されて、二人の騎士に連れられていた。
酷い扱いを受けているのか顔色が悪い。
それに弱っている様子で、自力では立つことができないようだ。
「さて」
ジャイルは特に表情を変えることなく、その手に持つ剣をサーリャさまの首に当てた。
「あまり陳腐なことは言いたくはないが……わかるな? この方の命が惜しければ、おとなしく投降しろ」
「お前、正気か!? 王族を人質にとるなんて……」
「私が壊そうとしているのは、その王室だ。なればこそ、ためらう理由はない」
ヤツは本気だ。
その言葉、仕草から覚悟が伝わってきた。
どうしてサーリャさまが敵の手に落ちたのか?
王城は硬く守られていたはずだ。
それを突破することは簡単にできることじゃない。
内通者か?
これだけの数の騎士がジャイルに味方していることを考えると、ありえることだ。
国に不満を抱いている人がそこまで……いや、違うか。
現状に、魔族との争いが続いていることに疲れている人が多いのだろう。
だからこそ、全てを終わらせることができるというジャイルの言葉に惹かれる者は多い。
でも、違う。
違うんだよ。
魔族と和解できる可能性はある。
ただ、それは果てしなく困難な道で……それともう一つ。
『魔王』という概念をどうにかしなければならない。
それらをどうにかする前に仲間内で揉めてどうするのか。
それこそ魔族の思う壺だ。
「どうした? 投降しないのか?」
「……」
「ならば、我らの決意の証として、王女にはここで死んでもらうことになるが」
先日の会話。
もしかしたら、サーリャさまはこうなることをどこかで予見していたのかもしれない。
だから、いざという時は切り捨ててほしいと言った。
サーリャさまは、人類のために己の身を捧げる覚悟だ。
でも、俺は……
「……わかった」
サーリャさまがどれだけ覚悟をしていたとしても、その命を無視することはできない。
犠牲にすることなんてできない。
当たり前だ。
ここでサーリャさまを犠牲にしたら、どうして俺がジャイルを否定できるだろう?
同じことをしてしまう。
……ただ、諦めるつもりもない。
目でリファに合図を送り……
「これでいいか?」
それから俺は、クサナギとカムイを地面に置いて、数歩、後ろに離れた。
「くそ、てめえら……」
「アクス」
「……ちっ、わかったよ」
アクスもカタナを置いて、セルは弓と矢を置いた。
カナデとイリスは武器を持っていないが、両手を頭の後ろで組んで、抵抗はしませんと示してみせた。
「思っていたよりもおとなしいな」
「この状態で、他に選択肢はないだろう」
「王族の命を捨てることができない……か。愚かな。くだらない体制に縛られているから、いざという時になにもできない。過去の楔を打ち破ることができず、新しい道を歩むことができない。もはや争うべきではないというのに」
「……それについては賛成だけどな」
どうしてもこの男に言っておきたいことがある。
「魔族と和平を結ぶ。夢のある話だ。それが本当にできたなら、あんたは新しい王にふさわしいだろう」
「その通りだ。私が平和を勝ち取る」
「で……どうやって和平を結ぶつもりだ?」
「それはもちろん、協力者の伝手を頼り……」
思わずため息をこぼしてしまう。
「あのな……頼れるのはどこの誰かわからない協力者。で、相手のトップに会ったこともない。その様子だと、西大陸に渡ったこともなさそうだな? そんな状態で魔族を理解したと言えるのか? 本当に和平を結べると思っているのか?」
「む……」
「理想を掲げるのはけっこう。夢を追い求めることも大事だ。でも、まずは目の前の現実を見てほしいな。それすらまともに見えていない相手に、人生を託すなんてできるわけがない。バカのすることだ」
「私を愚弄するか!?」
「愚弄? 真実を言っているだけだよ」
「貴様っ!」
ジャイルは激高して……
しかし、すぐに冷静さを取り戻す。
伊達に上に立つ者ではない。
「……待て。仲間がもう一人いたはずだ。女はどこへ行った?」
今更、リファが消えていることに気づいたようだ。
ジャイルを挑発したのも、このための時間稼ぎ。
今気づいても、もう遅い。
「ぎゃあ!?」
「ぐあ!?」
突然、影から二頭の巨大の狼らしき獣が飛び出した。
サーリャさまを捕える騎士達を襲い……
「もらい」
さらに影からリファが飛び出して、サーリャさまを脇に抱えて跳ぶ。
リファなら影から影を渡り、奇襲をしかけることができる。
こちらの期待に応えてくれて、リファは見事にサーリャさまを助けてくれた。
「くっ、どこに潜んで……すぐにお……!?」
魔眼を発動して、ジャイルの動きを止めた。
突如、動きが止まり命令も止まる。
騎士達は動揺を示して、それでもジャイルの指示を待つために彼を見る。
こういう時、各自の判断で動けないのが騎士の辛いところだな。
「悪いが、お前らは騎士じゃねえな。王女だろうがなんだろうが、女性を人質に取るようなヤツはクズっていうんだよ!」
「珍しくあなたの意見に賛成ね。蹴散らしましょう」
アクスとセルも即座に動いて……
そして、俺もクサナギとカムイを拾い、駆ける。
その隣にカナデとイリスが並ぶ。
「レイン!」
「レインさま!」
「ああ、やるぞ」
二人と一緒に駆けて、好き勝手された鬱憤を晴らすように戦う。
特にカナデとイリスが暴れた。
それはもう、ものすごく暴れた。
ついつい騎士に同情してしまうほど暴れた。
まあ、自業自得ということで。