作品タイトル不明
779話 どちらが正しいか
「貴様、何者だ?」
多少、不快そうな顔をしつつ、ジャイルが静かに問いかけてきた。
「レイン・シュラウド。冒険者だ」
「ふむ、貴様があの……」
俺のことを知っているらしく、ジャイルはわずかに驚いた顔になる。
「なぜ我の前に立つ?」
「あんたのくだらない野望を止めるために」
「ほう、平和を願う想いをくだらないと言うか」
「その想いが本物なら立派だよ」
たぶん、彼は嘘を吐いていない。
さっきの演説、全て本物だろう。
「我は、真剣にこの国と民のことを考えている」
「その結果が謀反だと?」
「王は賢いが、しかし臆病者だ。大きな改革が必要だというのに、傷ができることを恐れて、なにもしようとしない。そのようなことでは、いずれ手遅れになってしまうというのに」
「改革というのは、魔族のことか?」
「うむ、その通りだ。魔族の問題は今に始まったことではない。ずっと昔から続いて……そして、このままではこの先も続いていくだろう。それは許されない。子供達のため、我々はここで問題を断ち切らねばならぬのだ」
素直に立派な考えだと思う。
問題を有耶無耶にしないで、真正面から取り組もうとする強い意思を感じた。
アリオスに騙されている可能性は高い。
それでも、彼の国を想う気持ちは本物なのだろう。
でも……
「なら、どうして話し合いをしない?」
まず最初にするべきは、言葉を交わすことだ。
剣を取ることじゃない。
それなのに、この男は剣を取った。
話し合いという選択肢を無視して、力をぶつけることを選んだ。
その点に関しては、絶対に認めることはできない。
「色々と思うところがあるのなら、まずは話し合いをするべきじゃないか?」
「あの王は我の話に耳を傾けることはない」
「そんなことはない。誠意を持ってきちんと話をすれば、聞いてくれるはずだ」
「いいや……魔族と和平を結ぶ。そのような話は、あの王は絶対に受け入れぬよ」
ジャイルは確信した様子で言う。
彼は俺の知らない王の顔を知っているのだろうか?
それとも……
「さて……どいてもらおうか? 我の邪魔をするというのならば、英雄であろうと容赦はしない」
「俺の答えは変わらないよ」
いつでも動けるように身構える。
「あんたの言葉に嘘偽りがないとしても、協力はできないし、見過ごすこともできないよ。ある意味では、正しいのかもしれないけど……やっぱりダメだ」
「なぜ邪魔をする? 正しいかもしれないと、そう理解しているのだろう?」
ジャイルはアリオスと組んでいる。
魔族との和平は彼の提案によるものだろう。
それはダメだ。
アリオスは和平なんて考えていないはずだ。
前に会った時、ヤツは俺に固執しているように見えた。
勇者とか世界の平和とか、もうどうでもいいように見えた。
今回の事件も、ジャイルをいいように利用しているのだろう。
目的はわからないが、都合のいい展開を作ろうとしているのだろう。
それがわかるからこそ、ジャイルに協力することはできない。
そしてなによりも……
「やっぱり、力に頼る改革は賛同できない」
「痛みを得ることを避けるか? やはり、貴様は軟弱な……」
「違う、違うだろう」
改革のために痛みを生む。
ジャイルは、それを己で受け止めようとしているみたいだけど、そんなことはありえない。
その覚悟も、ただの勘違いだ。
こういう時、犠牲になるのはいつも力ない人達だ。
涙を流すのはジャイルではなくて、子供達なのだ。
王に剣を向ける。
そのようなことをすれば国が荒れるのは確実だ。
そして、たくさんの人が巻き込まれてしまう。
血を流してしまう。
この男は、そのことをまったく理解していない。
戦場に立つ者だけが血を流すと勘違いしている。
「あんたのやり方だと、たくさんの人が傷つく。たくさんの涙が流れるんだよ」
「改革のため、必要な犠牲だ」
「そんなふざけたことを真顔で……!」
「1万を助けるために100人を犠牲にしなければならないとしたら? 私は迷わず100人を犠牲にしよう。これは、そういう話だ」
「そんな話、認められるか」
結局のところ、少数であろうと殺すことになる。
それを『犠牲』という美談にするな。
「俺は、1万も100も、どちらも助けてみせる。必要な犠牲と簡単に諦めたりしないで、最後の最後まであがいてみせる。諦めてどうするんだよ? どうにかしようと足掻くために、人間は力と知恵を持つんだろう?」
「……」
「なによりも……」
故郷のことを思い返した。
「あんなことは、絶対に繰り返すわけにはいかない」
以前は、大事なものを守りたいという想いだけだった。
そのためだけに戦ってきた。
でも、今は違う。
悲劇を繰り返したくない。
誰かの涙を止めたい。
そのために俺は戦う。
そして、ジャイルが力を振りかざして争いを起こそうというのならば、全力で止めるだけだ。
「なるほど……貴様らも同じ考えか?」
「……みんな……」
振り返ると、カナデとリファ、アクスとセルがそれぞれ身構えていた。
「私達はレインの使い魔だからね。ご主人さまのお手伝いをするだけだよ」
「それに、レインの言うこともわかる」
「相変わらず甘いことばっかり言ってるが……ま、たまにはそれも悪くねえな」
「もっと素直になりなさい」
みんながいる。
それだけで、なんでもできるような気がした。
「……よかろう。道を阻むというのならば、我は踏み潰していくのみ! 我が覇道の礎となるがいい!!!」