作品タイトル不明
778話 大義
悲鳴は外から聞こえた。
急いで外に出ると、武装した騎士達がこちらにやってくるのが見えた。
それを見て、周囲の人達が慌てた様子で逃げている。
悲鳴は彼らのものだろう。
なにか恐ろしいことが起きていると感じたに違いない。
騎士達が左右に分かれた。
中央から大柄な男が前に出る。
「我は、ジャイル・エレクトラム。国を真に想う勇士である」
その声は屋敷で聞いたものと同じだ。
つまり、彼が謀反を起こした貴族の一人、ということになる。
「我らは国の腐敗を正し、あるべき姿に戻すために剣を取り、立ち上がった」
王都の人々は距離を取りつつも、なにが起きたのだろう? と、遠巻きに様子を見ていた。
力強く話をするジャイルの言葉に耳を傾けている。
「この王都に暮らす民よ、聞いてほしい。今の我は街中で剣を抜いて、多数の武装した部下を引き連れている。ともすれば、それは盗賊のように見えるだろう。しかし、その目的はまったく違うものだということを理解してもらいたい」
やや遅れて、遠くの方からもジャイルの声が聞こえてきた。
サーリャさまが持っているような魔道具を使い、王都中に声を届けているのだろう。
「我は国の未来を思い、剣を取ることにした。立ち上がることにした。なぜか? 現王は賢王と呼ばれているが、しかし、アルガスは人類に弓を引く逆賊なのだ!」
人々は怯えつつ、しかし、ジャイルの話に耳を傾けている。
さすが、というべきか。
演説の心得のようなものをしっかりと把握しているようだ。
彼の言葉は不思議な力があって、ついつい聞いてしまう。
――――――――――
「諸君は魔族のことをどう思う? 全ての生き物の天敵。どちらかが滅びるまで戦うしかない……そのような認識を持つ者が大半だろう。しかし、それは間違いなのだ! 愚王アルガスが広げた過ちなのだ!」
「魔族は理性のない魔物とは違う。心を持っている。言葉を交わすことができる。我らと同じように、隣人を愛することができる。そう、なにも変わらないのだ!」
「しかし、愚王は魔族を敵と定めて、滅ぼすことが正しいと叫んでいる。それは正しいことなのか? 否! 断じて否である!」
「我は、すでにいくらかの魔族とコンタクトをとった。そして、和解に向けて話を進めている! そう、人類と魔族は手をとることが可能なのだ!」
「愚王もそのことは理解しているはず。はずなのだが……しかし、実行に移そうとしない? それはなぜか? 己の私腹を肥やすためだ!」
「戦争のために税を徴収する。兵を徴収する。そのために、王は魔族との争いを止めようとしない。自分の地位を固めて、永続的な支配体制を確立するために! そんなくだらない欲望に諸君は利用されているのだ!」
「我は違う! 我ならば、争いではなくて話し合いで解決することができる。魔族と和平を結び、真の平和をもたらすことができる!!!」
「故に、我は立ち上がることにした。真に国を想う者として。民を考える者として。愚王を排除して、我が真の救済者となる!!!」
――――――――――
「おい、今の話……本当なのか?」
「まさか、魔族と和解できるとか、ありえないだろ」
「でも、もしも本当だとしたら……」
ジャイルの演説を聞いた人々は戸惑いを見せた。
彼の話を簡単に信じることはできない。
しかし、その内容はとても魅力的だ。
ついつい考えて迷ってしまうほどに甘い。
「おい、レイン。今の話は……」
「デタラメだな」
俺は断言した。
魔族の真実。
人間が過去にやらかしたこと。
俺は、それらを知っているものの……
でも、魔族が和平を望んでいるということはない。
一部を除いて、魔族の大半は人間を敵視している。
和平を結ぶなんてこと、よほどの隠し玉がない限りありえない。
「アリオスは謀反を起こした貴族連中と手を組んでいた。だから、たぶん、アリオスに騙されているんだろう。魔族と和平を結ぶことができると、そう吹き込まれているんじゃないか?」
「……仮に、彼の言っていることが本当だとしたら?」
セルはあくまでも冷静だった。
あらゆる可能性を考えて、どうするべきかを問いかけてくる。
彼女のような存在はとてもありがたい。
第三者視点で物事を見て判断してくれるため、こちらも落ち着いて考えることができる。
「だとしても、連中の行動を容認するわけにはいかないな」
「私もレインと同じかな」
「ボクも」
カナデとリファも賛成してくれた。
「どんな大義があろうと、連中はまず最初に剣を抜いた。戦う意思を見せた」
本当に魔族と和平を結ぶことができるのなら、まずは話し合えばいい。
それすらしようとせず、最初から力を使う。
そんな連中のなにを信じろというのだろう?
こいつらはアリオスと同じだ。
都合のいい甘い言葉をささやいて、人を騙して……
そして、力を使って自分が望むものを手に入れようとする。
ただのテロリストだ。
だから……
「悪いが」
演説を続けるジャイルの言葉を遮り、割り込む。
「そこまでにしてもらおうか」