作品タイトル不明
775話 一人の乙女
その後、サーリャさまと色々と打ち合わせをするのだけど……
とんでもない策を聞かされることになった。
謀反を企む貴族については、そのまま放置。
謀反を起こさせてしまう。
ただ、なにも対処をしないわけじゃない。
敵の計画の全容を事前に把握。
それによって被害を最低限に抑える。
そして、『謀反を起こした』という確たる証拠を元に断罪する。
王が考えたらしいが、大胆すぎる策だ。
無理におさえつけても禍根を残してしまう。
堅実な調査を進めようとしても、うまいこと避けられてしまうか、あるいは妨害を受けてまっすぐ進むことはない。
ならば、いっそのこと謀反を起こしてもらう。
そうして、どう考えても言い逃れできない状況で断罪すればいい……と考えたらしい。
ハイリスク、ハイリターンだ。
万が一、謀反が成功してしまったら終わり。
それに、民に大きな被害が出るかもしれない。
でも……
それは絶対にさせない、という自信があるからこそ、この策を実行しているのだろう。
それを可能とする力と知恵を持つ人だ。
ただ、アリオスという不安要素はある。
そこは俺達が対処することになった。
そうした感じで話はまとまり……
気がつけば日が暮れていた。
親睦を深める意味でも、みんなで食事をして……
その後、談笑して……
男性陣、女性陣分かれて風呂に入り……
そして就寝。
「……」
ただ、眠れない。
環境が変わったこともあるけど、これからのことを考えると、どうしても落ち着かなくなってしまう。
複数の貴族が企んでいる謀反。
そんな大事件に巻き込まれるなんて、思ってもいなかった。
そしてなによりも……
「アリオス……お前は、いったいなにを考えているんだ?」
――――――――――
眠ることができず、少し散歩をすることにした。
不審者と間違われたら大変なので、そこは侍女にきちんと説明しておいた。
「ふぅ」
城の中庭に出て、夜空を見上げる。
星が輝く中、月が静かに浮かんでいる。
この空の下、どこかにアリオスがいる。
あいつはこの綺麗な光景を見て、なにも思わないのか?
どうして、壊そうとしてしまうのか?
本当に……アリオスがなにを考えているかわからない。
「レインさま」
「サーリャさま?」
振り返るとサーリャさまがいた。
普段のドレス姿じゃなくて、ルームウェアだ。
「どうかされましたか?」
「ちょっと眠れなくて……サーリャさまは?」
「さきほどレインさまの部屋を訪ねたのですが、いなかったので」
「俺を探していたんですか?」
「少しお話をしませんか?」
小さく微笑みつつ、サーリャさまは俺の隣に立つ。
そして一緒に夜空を見上げた。
「申しわけありません」
「どうして謝るんですか?」
「結局、レインさまを巻き込んでしまいました。いえ……こうなることを期待していました。そして、誘導していたのかもしれません。ですから私は……」
「気にしないでください。だとしても、大丈夫ですよ。言ったじゃないですか、友達だ……って」
「……レインさま……」
「アリオスのことは放っておけないし、貴族の謀反のことも放っておけないけど……やっぱりそれ以上に、サーリャさまが困っているのならなんとかしたい。それが素直な気持ちです」
「ありがとうございます」
サーリャさまはこちらを見て微笑む。
その笑顔は月のように優しく、太陽のように温かい。
こうして見ると、とても不思議な人だ。
「今夜はもう一つ、お話したいことがあります」
「なんですか?」
「お話というか……お願いですね」
サーリャさまは神妙な顔で言う。
少し嫌な予感がした。
「このような時にお仕事の話をするのもアレなのですが……今回の事件、貴族は私を担ぎ上げようとするでしょう」
単純に力で王家を倒しても意味はない。
私利私欲のために力を振りかざすものに人々はついてこない。
だから、大義名分が必要だ。
そのために、貴族達は王位継承権の一番低いサーリャさまを担ぎ出すことを計画しているという。
「でも、そんなものに協力しませんよね?」
「もちろんです。ですが、私の意思とは関係なく利用される可能性はあります」
「……薬や魔法ですか」
そういったものを使えば、ある程度、人を任意の方向に誘導することは可能だろう。
あるいは、もっと大胆な説を考えると、サーリャさまを暗殺なり誘拐なりして表舞台から消して、そっくりな別人を利用することも考えられる。
そこまで企んでいるということを、すでにサーリャさま達、王家の方々は突き止めているのだろう。
拳を握る。
権力を欲するという、くだらないことのためにサーリャさまに危害を加えるとか、絶対に許せることじゃない。
「もちろん、そう簡単に利用されるつもりはありません。万全の準備をして、防備もしっかりと固めています。ただ……それでも、未来を完璧に読むことはできません。予想外の事態が発生したり、敵の策がこちらの策を上回るなどして、いいようにされてしまうこともあるでしょう」
「それは……」
「なので、その時、レインさまにお願いしたいことがあります」
サーリャさまはまっすぐに俺を見て、静かに言う。
「そのようなことになった時は、どうか、ためらうことなく私を切り捨ててください」