作品タイトル不明
765話 街中の凶行
突然、悲鳴が聞こえてきた。
いつでも武器を抜けるように柄に手を伸ばしつつ、悲鳴が聞こえた方に駆ける。
「これは……」
表通りから一本外れた小さな道。
そこに二人の人影があった。
一人は冒険者だろう。
鎧に身を包み、剣を腰に下げている。
ただ、太ももの辺りから血が流れていた。
骨に届くほどの深い傷らしく、どんどん血が流れている。
そしてもう一人は……
「アリオス!?」
黒い外套をまとっているものの、あいつの顔を見間違えるわけがない。
アリオスは血に濡れた剣を手にしていた。
その剣で冒険者を襲ったのだろうが……妙だな?
アリオスが持つ剣はとても年季が入っているように見えた。
簡単に言うとボロボロだ。
刀身は錆びているし、刃はボロボロ。
よくもまあ、あれで人が斬れたものだと妙な感心をしてしまう。
「やぁ、レイン。久しぶりだね、元気にしていたかい?」
「お前、なにをしている!?」
「アニキ? あの人間は……」
「敵や!」
普段、温厚なティナが鋭く言い放つ。
それだけ彼女も、アリオスの今までの行いに腹を立てているのだろう。
「レインの敵? 殴る!」
「ええで、殴ってまえ!」
「あわわわ、わ、ワタシはえっと……」
「やれやれ、みなさん過激ですわね。まあ……せっかくなので、わたくしも便乗しましょうか」
「がん、ばる」
みんな、やる気たっぷりだ。
いや、殺る気……?
「やれやれ。相変わらず、君の仲間は血気盛んだね。しっかりと躾けた方がいいんじゃないかな?」
「お前……!」
「ああ、そうか。こう言うと君は怒るのか? 悪いね。特に挑発するつもりはなかったのだけど……ふむ。そうなると僕の性格に問題があるのか。やれやれ、こんなところで己を見つめ直すことになるとは」
アリオスは落ち着いていた。
以前のようにすぐ感情を乱すことはなくて、別人のように冷静だ。
魔族になった影響なのか?
それとも……
「しかし……」
アリオスの視線がシフォンに向けられた。
「君が新しい勇者かな?」
「……だとしたら?」
シフォンは剣を抜きつつ、鋭い視線を返す。
そんな彼女を見て、アリオスはやれやれと肩をすくめてみせた。
「好戦的だね。僕はまだ、なにもしていないというのに」
「どう見ても、これはあなたの犯行に見えるけど?」
「ああ、これかい? そうだね、これは僕がやったことだ」
意外というか、あっさりと認められた。
そして……
アリオスの言葉には罪悪感というものが欠片もない。
理由はわからないけど、人を傷つけておいて悪びれた様子がまったくない。
不気味だった。
「ただ、君に剣を向けたわけじゃない。それなのに怒る理由がわからないな」
「本気で言っているの……? 元とはいえ、勇者だったあなたが、そんなことを本気で?」
「本気だけど……なにかおかしなことを言ったかな?」
「あなたは……」
シフォンもアリオスの不気味さを感じ取ったのだろう。
困惑を覚えている様子で、ちらりとこちらを見る。
ごめん、俺もわからない。
俺の知るアリオスはもういない。
ここにいるのは、アリオスだったものの成れの果て。
なにか異質なものに変貌した、理解できない存在だ。
「しかし、勇者は知っていたけれど、レイン達が王都にいるのは意外だったね。気の向くまま狩りをしていたのだけど、おかげで、こんなにも早くバレてしまった」
「それじゃあ……」
「さて。僕はこの辺で失礼しようか」
アリオスは剣を鞘に納めると、一歩、後ろに下がる。
「レインと遊びたいところだけど、でも、遊ぶならしっかりと遊びたいからね。今はまだ、準備が足りない」
「逃がすとでも?」
「なら、この男は見捨てるのかい?」
アリオスと冒険者、二人の間で視線を行き来させた。
一瞬の隙。
それを見逃すことはなくて、アリオスは大きく跳躍して近くの建物の屋根の上に。
そのまま屋根を伝って逃げていく。
「レイン君、ここは私が!」
「自分も行くっす!」
「ボクも!」
シフォンとライハとサクラがアリオスを追いかけた。
追跡はあの三人に任せよう。
それよりも俺達は、冒険者の手当をしないと。
「フィーニア、頼めるか? 俺はサポートをする」
「は、はひっ!」
「大丈夫やでー、そんなに緊張することあらへん。フィーニアはやればできる子や」
「がん、ばれ」
「わたくしは、念のため、周囲を見てまいりますわ」
現場に残ったメンバーも行動を開始する。
フィーニアは癒やしの炎を発現させて、俺は治癒魔法でサポートをして……
「……」
魔法を唱えつつ、疑問に思う。
アリオスは、いったいなにを考えているのだろうか? ……と。