作品タイトル不明
764話 とある騎士の影
シフォンを情報収集のメンバーに加えた後、再び街に出た。
色々な人に話を聞きつつ、街を歩いて行くのだけど……
「……な、ななな、なんだかワタシ達、見られていませんか?」
フィーニアがビクビクした様子で周囲を見る。
彼女の言う通り、道行く人の半分くらいがこちらに視線を送っていた。
ただ嫌な感じはしない。
好奇心……というよりは、好意?
基本的にプラスの感情だと思う。
ただ、そんな目を向けられる理由はわからないのだけど……
「あー、勇者さまだー!」
ふと、小さな女の子がそんなことを言う。
笑顔で走り出して……その行き先はシフォンだ。
「勇者さまだよね?」
「うん、そうだよ」
「わー、わー! やっぱり。いつもごくろうさまです。それと、ありがとう!」
「どういたしまして」
「がんばってね! 今の勇者さまは優しいから好き!」
「ばいばい」
女の子は元気よく手を振り、立ち去り……
それをシフォンは笑顔で見送る。
なるほど。
視線の理由はシフォンが一緒にいるからなのか。
シフォンが新しい勇者になったことなど、告知されていたらしい。
あちらこちら移動していたせいか、今になって初めて知った。
「シフォンの姐さんは人気者っすね!」
「かっこいい!」
「あはは……ちょっと恥ずかしいけどね」
ライハとサクラが目をキラキラと輝かせて、シフォンが苦笑する。
それから、ちょっと真面目な顔に。
「話を聞いていると、レイン君達の方がとんでもないことをしているから、もっとがんばらないと」
「シフォンも、とんでもないことをしていると思うけど……」
先程、シフォンとも情報共有したのだけど……
ミナの事件の後、彼女は東西南北、全ての大陸を渡っていたらしい。
南と東では、主に腐敗した貴族の調査、及び粛清を。
北大陸では、呀狼族と不死鳥族に王家からの親書を渡して信頼回復を図り……
そして西大陸で魔族の動向を探り、ユウキからの情報を頼りに、一部の者……穏健派とコンタクトを取ることに成功したらしい。
和平を結んだわけでも、協力関係を築いたわけでもない。
話をしただけ。
それでも、この一歩はとてつもなく大きいと思う。
魔族と戦うことなく話をするなんて、今までにないことだ。
「魔族のことを知れば知るほど、正直、ちょっと迷うね」
「……そうだな」
「でも……私は、ショコラとミルフィーユを襲った魔族は許さない」
「それでいいと思う。俺だって、仲間に手を出されたら同じ考えに至ると思う」
魔族の件に関しては、これまで以上に慎重に動いて、考えていかないといけない。
それでも、みんなに火の粉が及ぶのなら払い除けるまでだ。
もちろん、できる限り対話は試みるが。
「それにしても……」
ふと、イリスが困った様子で言う。
「シフォンさんがこれだけ注目されているのなら、情報収集はわりと簡単かもしれませんね」
「私は撒き餌……?」
「ふふ。今は似たようなものではありません?」
「むぅ。イリスさん、意地悪だね」
「そのようなことはありませんわ。ねえ、みなさん?」
「「「……」」」
「とても気まずそうに目を逸らされた!?」
イリスがショックを受けた様子で言う。
でも、それも仕方ないと思う。
時々、イリスは小悪魔のようになるからな。
「とにかく、今は情報収集に励もう」
「そうだね」
道行く人から話を聞いて。
色々な店の人に話を聞いて。
情報屋も当たり、冒険者狩りに関する情報を徹底的に集めた。
そうやって行動を進めていくと、いくらかの情報が固まる。
冒険者狩りの犯人は、人間と魔族の両方。
アサシンのような正体不明の者が襲いかかってきて……
あるいは、魔族が襲いかかってくることもあるという。
通り魔のような無差別な犯行ではない。
事件と事件を繋げていくと、敵の行動パターンはしっかりとしたもので、なにかしら組織が関与していることがわかる。
そしてなによりも……
「女騎士と前勇者……か」
事件の影で、長髪の女騎士と前勇者を目撃したという情報を得た。
間違いなくモニカとアリオスだろう。
あの二人が冒険者狩りの黒幕なのか?
だとしたら、なにを企んでいるのだろう?
まず間違いなくロクでもないことだろう。
もしかしたら、冒険者だけじゃなくて王都の人に危害が及ぶかもしれない。
そんなことになる前に、どうにかして二人を捕まえたいところだけど……
残念ながら二人の行動パターンを読むことはできない。
以前のアリオスなら、なんとなくは読むことができたのだけど……
魔族化した彼はとても不気味で、まったくの別人になったかのようだった。
なにを考えて、どのようなことを企んでいるのか、もう読むことはできない。
もどかしい。
こうしている間にも、アリオスとモニカはとんでもないことを企んでいて、その計画を推し進めているかもしれないのに。
それなのに俺は……
「レイン」
ふと、くいくいっとニーナに服を引っ張られた。
視線を下に向けると、ぽんぽんと優しくタッチされる。
「考えすぎない、で……大丈夫。わたしたち、いるよ?」
「……ニーナ……」
「ニーナの言う通りやな。色々思うところはあるかもしれへんけど、なんでもかんでも一人で背負わんように。ま、レインの旦那の因縁は理解しとるけど……それを一人で全部どうこうする必要なんてないからなー」
「ティナ……ああ、そうだな」
ついつい思考がネガティブな方向に傾いてしまうところだった。
みんながいる。
だから、無理をせず無茶をせず、しっかりとがんばることにしよう。
「レイン君。ある程度、情報は集まったと思うから、そろそろカナデさん達と合流しない?」
「そうだな。紹介しておきたい仲間もいるし……」
「……サクラちゃんとライハちゃん以外にも、女の子を?」
「違う違う。アクスとセルって言って、何度かパーティーを組んだことが……」
「うわぁあああああ!?」
その時、悲鳴が聞こえてきた。