作品タイトル不明
766話 予兆
傷ついた冒険者を治療して、その後、念のため治癒院に送り届けて。
冒険者ギルドに事件の報告をして。
それと、ユウキに詳細を記した手紙を送り。
落ち着いた時には、すっかり陽が暮れていた。
宿へ戻りみんなと合流。
サクラ達はアリオスを取り逃がしてしまったらしい。
その後、再び話し合いをして、アリオスと遭遇したことを説明するのだけど……
「えっ、カナデ達の方でも事件が起きた?」
思わぬ報告に、ついつい大きな声を出して驚いてしまう。
「うん。街で聞き込みをしていたら、にゃんか嫌な予感がして……」
「カナデの言う方の様子を見に行ったら、冒険者が魔物に襲われていたの」
「もちろん、そんな悪い魔物は私達がやっつけたよ!」
偉い? 偉い? というような感じで、カナデがなにか期待する目をこちらに向ける。
「お手柄だな、カナデ」
「にゃふー♪」
頭を撫でると、カナデの尻尾が嬉しそうにふりふりと揺れた。
「それにしても、とんでもないことになっているな……」
「ええ」
セルが同意するように頷いた。
「地方に行けば、魔物が侵入してくることはたまにあるわ。それだけの魔物の脅威は大きい。でも……」
「いくらなんでも、王都に魔物が侵入するなんて、聞いたことがないぜ。鉄壁の守りのはずだろう?」
「それに、通常、魔物は人の多いところは避けるはずよ。巣を荒らしたとか、スタンピードの前兆とか、そういう例外があれば別なのだけど……」
セルとアクスの言う通り、魔物が王都の中に現れるなんて異常事態だ。
よほどのことがない限り、そんな事態にはならない。
今、そのよほどのことが起きているのか。
あるいは……
「……もしかしたら、誰かが手引をしているのかも」
「どういうことかしら?」
「以前、魔物を操ることができる魔族と戦ったことがあるんだ。もしかしたら、今回も……」
ヴァイスのことを思い出した。
魔物を操ることで、クリオスとホライズンの両方を襲撃して、大きな混乱を招いた魔族。
最後はリファがトドメを刺した。
死んだことに間違いはないだろうけど、他にも、ヴァイスと似た能力を持つ魔族がいないとは限らない。
その魔族が今回の事件に関わっているとしたら?
魔物を操り王都に侵入させて、冒険者を襲う。
不可能ではない。
十分に実現可能な範囲だけど……
ただ、目的がわからないな。
そこまでして、なぜ冒険者を襲う?
そして、アリオスもまた、なぜ冒険者を襲っていた?
「レイン君、どうしたの、黙り込んで?」
「ああ……ごめん、あれこれ考えていた。どうにもこうにも、敵の目的が見えてこなくて」
以前、ホライズンやクリオスが襲われた時は、贄を集めている、と言っていた。
今回もそれと同じなのだろうか?
でも、いきなり敵の本拠地と言える王都を攻めるだろうか?
普通は辺境の村などではないか?
「むう……考えることが多くて頭が痛くなってしまいそうなのだ」
「がん、ばれ」
「ひとまず休憩にしませんか? みなさん、疲れていると思いますし……そろそろごはんにしましょう」
ソラの提案にみんな賛成した。
「ウェイトレスさん、注文ええ?」
「えっとえっと、な、ななな、なにを食べれば……!?」
「フィーニア、痩せている。お肉食べる!」
「あら。わたくしは、フィーニアさんはこれくらいがちょうどいいと思いますが」
「うん。可愛い」
食事となり、一気に賑やかになる。
なんだかんだ、こういう時間が一番賑やかで楽しいんだよな。
「ねえ、レイン君」
ある程度食事が進んだところで、シフォンに声をかけられた。
彼女の頬はうっすらと朱色に染まっている。
ほどほどに酒を飲んでいて、ほどほどに酔っているのだろう。
ただ、目はしっかりとしていた。
この雰囲気を楽しみつつも、今後のことを考えている様子で、どこか遠くを見ている。
「今回の事件、どう思う?」
「……正直、なんとも言えない」
「わからないことが多いから?」
「そうだな。こうだ、って断定するには、もう少し色々な情報が欲しい。ただ……」
「ただ?」
「……少し初動を間違えたら、一気に手遅れになりそうな、そんな嫌な予感がするんだ」
胸がざわついている。
こうして酒を飲んでいても気が晴れることはなくて、酔いが完全に回ることはない。
「そっか……レイン君も同じなんだ」
「ということは、シフォンも?」
「ただの勘だけど……これから先、王都を揺るがすような大きな事件が……ううん。それこそ、人の世界を揺るがすようなとんでもないことが起きそうな気がするの」
シフォンはあくまでも真面目な口調で言う。
酔った勢いで言っているわけじゃない。
考えが肥大化しているわけでもない。
彼女は、あくまでもそうなるかもしれないと訴えて、危険性を考えているのだろう。
「私の勘って、外れたことがないんだよ? ……今回は外れてほしいんだけどね」