作品タイトル不明
757話 久しぶりの再会
「なあ……俺達、長いこと一緒にいるよな」
「そうね」
「ここまで一緒に過ごしているのなら、もう夫婦と変わらないんじゃないか?」
「いいえ」
「これからも、ずっと一緒にいよう……結婚しよう!」
「お断りするわ」
「なんでだよ!? そこは、嬉しい! って喜ぶ流れだろう!?」
「あなたの頭は、鳥以上にスカスカなの? 前後の文脈をちゃんと考えて理解して」
「くそう……今日こそはうまくいくと思ったのに」
「その謎の自信だけは見習いたいわ」
この二人はなにをしているのだろう?
仲が悪いように見えて、でも、良いようにも見えるから不思議だ。
やれやれと苦笑しつつ、タニアは二人に声をかけた。
「ひさしぶりね、アクス、セル」
「お?」
「あら?」
アクス・ギン。
セル・マーセナル。
共にAランクの冒険者で、何度かレインと共闘したことがある。
対決をしたこともあるが……それも今では良い思い出だ。
タニアは懐かしさを感じて自然と笑みになる。
それは二人も同じだったらしく、普段は無表情のセルも優しい笑みを浮かべた。
「おぉ、タニアじゃねえか! 久しぶりだな」
「まさか、こんなところで会えるなんて思ってもいなかったわ」
「あたしも同じよ。あ、一緒していい?」
断りを入れてからタニアが相席した。
ドリンクをオーダーして、それを軽く口に含みつつ、アクスとセルを見る。
「あれからけっこう経つけど、二人は相変わらずみたいね」
「ああ、もちろんだ。俺とセルの愛は揺るがねえ」
「愛なんて元からないから、揺るぎようがないわね」
アクスは本気で言って……
しかし、セルもまた本気でバッサリと切り捨てる。
「ほんと、相変わらずね。まったく変わっていないじゃない」
それがこの二人の絆なのかもしれない。
ふと、タニアはそんなことを思った。
「タニアがいるってことは、レインもいるんだろ? どこにいるんだ?」
「今は別行動中よ」
「なんだ、振られたのか?」
「コロスワヨ?」
「ごめんなさい」
ドスの効いたタニアの声に、アクスは額をテーブルに擦りつけた。
アクスなりの冗談ではあるが、レインに想いを寄せているタニアとしては、笑って流すことはできない。
とはいえ、本気で怒ることもできない。
どこか憎めないのがアクス・ギンという男なのだ。
「あなたは、もう少しデリカシーというものを学びなさい」
「ぐはっ!?」
それに、お仕置きならセルがしてくれるから問題ない。
「レインは……ちょっとした用事があって、あたしらは宿を取りにきたの」
「ということは、カナデ達も一緒なのかしら?」
「ええ、もちろん。それと、二人の知らない仲間もいるわ」
「あら、それは興味深いわね」
久しぶりの再会に話が弾む。
ここにレインがいれば、もっと盛り上がっただろう。
レインが戻ってきたら、アクスとセルのことを教えなければ。
そんなところまで考えて、ふと、タニアは疑問に思う。
「そういえば、二人はどうして王都に? 色々なところを回る、って言ってなかったかしら?」
「ああ。俺とセルは新婚旅行を楽しんでいたんだがぐはぁ!?」
虚言を吐くアクスに、セルの裏拳が炸裂した。
アクスは床に沈み、代わりにセルが言葉を引き継ぐ。
「各地を転々としていたのだけど、ある日、召集令状が届いたの」
「召集令状?」
「Aランク冒険者は色々な特権を得る代わりに、国からの依頼を請けなければいけない」
「ああ……そういえばそんなルールがあったわね」
「だから王都にやってきた、というわけ」
「ふむ」
魔族の動きが活発になっていること。
ラウドネアで知った魔族の真実。
それと、四天王ゼクシードとの戦い。
色々なことが繋がっているような気がしたが、いまいちよくわからない。
レインが戻ってきたら聞いてみよう、とタニアはそう決めた。
「ちなみに、その依頼内容を聞くことは?」
「残念、さすがにそれを話すことはできないな」
「でも、レインもAランクだから、すぐ知ることになるかもしれないわ」
「ふーん」
気になる。
タニアの尻尾がそわそわと左右に揺れた。
「タニア達はどうして王都に?」
「んー……この前、ちょっとした依頼を請けて、その報告に……ってところかしら」
「もしかして……いえ、なんでもないわ」
頭の回転が早いセルはだいたいの事情を察した様子ではあるが、それを口にしない。
こんなところで話をしたら迷惑をかけてしまうと、そう判断したのだろう。
「なにはともあれ、再会できてよかったぜ。ここの宿に泊まるんだろ? なら、夜は飲もうぜ」
「ええ、レインが戻ってきたら伝えておくわ」
そういえば……と、タニアは、ふと疑問に思う。
イリスも一緒だけど、この二人と会わせていいものだろうか?
セルはともかく、アクスは直情型だ。
いきなり斬りかかったりしないだろうか?
「……ま、大丈夫よね」
いざとなれば自分達がいるし、それに、レインもいる。
だから問題ない。
タニアは、そんな楽観的な答えを出してしまうのだった。