作品タイトル不明
758話 乾杯
夜。
城から戻った俺は、アクスとセルがいるという話を受けて、二人と再会を果たした。
そして、一緒に飲むことになったんだけど……
「なっ、てめえは!?」
「ふふ、ごきげんよう」
イリスと顔を合わせると、アクスは大きな声をあげた。
セルも驚いている様子で、珍しく無表情が崩れている。
「てめえ、生きていたのか!?」
「あら、あら。このようなところで剣を抜くおつもりですか?」
「ぐ……」
アクスは剣の柄に手を伸ばすが、その前にイリスに釘を刺されてしまう。
「まあ、わたくしとしては相手をしても構いません。どうせ、一瞬で終わりますから」
「なんだと!?」
「ふふ……わたくしの必殺技に勝てるとでも?」
「面白いこと言ってくれるな。どんな技か知らねえが、俺が一瞬で負けるとでも?」
「負けますわ。土下座して謝ることになりますわ」
「はっ、どんな技なのか、ぜひ見せてほしいものだな」
「簡単ですわ。あなたに胸をいやらしく触られた、と泣くだけです」
「すみませんでした」
社会的に抹殺するという恐ろしい方法を口にしたイリスに、アクスは、土下座とまではいかないけど即頭を下げた。
「にゃー……イリス、恐ろしい子!」
「イリスの外見でそんなこと言われたら、逮捕確定ね。しかも、ものすごく不名誉な罪で」
「でも、イリスは実年齢は百を超えているだろう? 合法なのではないか?」
「ルナ、それ以上言ってはいけません」
イリスに笑みを向けられて、ルナは慌てて口笛を吹いてごまかした。
「あー……なんていうか、ごめん」
「ったく……どういうことなのか、きっちり説明してもらうぞ?」
「そうね。彼女……彼女達について、私も色々と聞きたいわ」
セルは、イリスだけじゃなくてライハにも視線を向けていた。
こんなにわかりやすい外見をしているから、さすがに彼女が魔族ということに気づいているのだろう。
もっとも、他の人は気づいていない。
魔族といえばおどろおどろしい外見をしている、というのが一般の認識だ。
人間とあまり変わらない姿をした魔族もいるということは、一部の冒険者しか知らないことだ。
俺は故郷の件もあって知っていたが……
魔族の姿を知っている者は、Aランクの冒険者の中でも、さらに一部ではないか?
「実は……」
それから、長い長い話をした。
ある程度は省略しているものの、それでも話すことはたくさんだ。
料理を食べて、酒を飲んで。
みんなで楽しい時間を過ごしつつ、今までに起きたことを簡単に説明した。
ただ、魔族の真実などは伏せておいた。
まだ公表してはいけないことになっている。
「実は生きていて、改心してレインの仲間になった……ねえ。本当か? 実は、寝首をかこうと裏でこそこそ動いていたりしないか?」
「あら、失礼ですわね。わたくし、レインさまを襲う時は堂々といきたいと思いますわ」
「不思議。イリスが言うと別の意味に聞こえる」
「実際、別の意味なんやろなー」
リファが小首を傾げて、ティナが苦笑した。
「呀狼族に不死鳥族……それに魔族。未知の最強種を仲間にするだけじゃなくて、まさか、魔族まで仲間にしているなんて……あなたと会うといつも驚かされるわ」
セルはセルで別のことに驚いていた。
そんなに驚くような……いや、驚くことか。
未知の最強種に魔族を仲間にするなんて、普通は考えられない。
でも、俺にとってみんなと一緒にいることは当たり前になっていて……
最近、感覚が少しおかしくなっているのかもしれない。
「ま、元気にやっているようで安心したぜ」
「そうね。アクスはいつもレインのことを気にしていたわね」
「そ、そんなことねえよ!」
「あら。二日に一回は、レイン達はどうしているかな? とつぶやいていたのに?」
「聞かれていたのかよ!?」
「なんかありがとう?」
「礼を言うな! くそはずいだろ!?」
アクスはテーブルに突っ伏して、そんな彼を、セルはどこか楽しそうに見ている。
この二人の関係も相変わらずのようだ。
「アクス達は、召集令状が届いたんだよな?」
「ああ。なんか、厄介な事件が起きたから、解決に力を貸してほしいってな」
「でも、詳細はまだ知らされていないの」
「……なるほど」
十中八九、城で聞いたアレだろう。
アクスとセルなら話しても問題はないかな?
どうせ、明日には知ることになるだろうし。
「実は俺、城に行っていたんだ」
「は?」
「それじゃあ、ちょっとした依頼っていうのは……」
「ユウキ……王子から請けた依頼なんだよ」
二人の顔が驚きの表情に。
「お前……いつの間に、王子と繋がりなんて……?」
「本当、毎回驚かされるわね……」
「まあ、色々とあって。で……そこで色々な話を聞いたんだ」
その時のことを思い返す。
――――――――――
「やあ、レイン。久しぶりだね」
城の客間で待機していると、ほどなくしてユウキが姿を見せた。
笑顔で手を差し出してくる。
彼一人なので、それなら遠慮することはないかと、しっかりと握手をする。
「元気そうで良かった。依頼の内容が内容だから気になっていたんだ」
「心配かけたかな? ごめん」
「謝ることじゃないよ。とにかく、無事でなによりだよ。本当によかった」
本当なら色々と聞きたいはずなのに、まず最初に俺の心配をしてくれる。
そこにユウキの優しさを感じた。
「紅茶を飲む? 今日は暑いから、冷たい方がいいかな?」
「頼むよ」
「うん、了解」
ユウキは笑顔で準備をしてくれる。
王子にお茶を淹れてもらうとか、よくよく考えてみると、とんでもないことをしているな、俺。
でも、友達なのだから、公の場でない限りそこまで気にすることはないか。
そう割り切り、俺は俺で、途中で買っておいたお菓子を用意する。
そうして簡単なお茶会が開かれた。
紅茶とお菓子を味わい、世間話をして……
「それじゃあ……そろそろ聞いてもいいかな?」
ややあって、ユウキが王子の顔に戻った。