作品タイトル不明
755話 ライハの話
翌朝。
「アニキ、大事な話があるっす」
馬車を止めて、野営の準備をしてからライハと向き合う。
話したいことがあるから時間をとってほしい、と頼まれたのだ。
もちろん、断る理由なんてない。
しばらく馬車を走らせた後、休憩のタイミングでライハの話を聞くことにした。
もちろん、みんなも一緒だ。
焚き火で温めたホットミルクがみんなの手に渡り……
そのタイミングでライハが口を開いた。
「わざわざ時間を作ってもらって、申しわけないっす。ただ、どうしても話しておきたいことがあって……自分のことを説明しておかないと、って思って」
そう言うライハは、とても神妙な顔をしていた。
普段と違い、のほほんとした感じは欠片もない。
「話っていうのは……ゼクシードとの戦いの時のことか?」
「っ!? な、なんでわかったっすか!?」
「いや、まあ……普通に考えて、それ以外にないだろうな、って」
「さすがアニキ……自分の考えていることなんて、丸見えなんすね」
誰でもわかると思うぞ。
「察している通り、あの時の話になります。自分の話……四天王候補だった、という話です。実は……」
「ストップ」
「アニキ?」
話を聞く前にどうしても確認しておきたいことがあり、制止する。
「先に確認しておきたいんだけど、その話、無理にしようとしていないか? 本当は辛いけど、でも、隠し事をしたらいけないとか、そういう変な義務感に駆られて話をするとか、そういうことだったりする?」
「えっと……」
「もしもそうだったら、無理に話をしなくてもいい。誰だって隠し事の一つや二つ、あるだろうし……なにより、ライハに辛い思いをさせたくないんだ。辛いなら無理をすることはないんだ」
「……アニキ……」
ライハは、うるっと瞳に涙を溜めていて。
「あら。ライハさんの話は、しっかり聞いておかないといけないと思いますが……」
「にゃー。でも、それがレインらしいよね」
みんなは、俺の決断を尊重してくれる様子で笑みを浮かべていた。
「大丈夫っす」
ややあって、ライハはしっかりと頷いた。
もう迷いはない様子で、前を向いている。
「義務感とか引き目とか、そういうのじゃなくて……自分が、アニキやみんなに話しておきたいと思ったっす。なんていうか、その……仲間なので」
ちょっと照れた様子でライハが言う。
「ありがと、ライハ」
「ふぁ」
ライハの気持ちが嬉しくて、ついつい反射的に彼女の頭を撫でてしまう。
嫌がられることはなくて喜んでいるみたいだ。
羽がぱたぱたと、尻尾がひょこひょこと踊るように動いている。
「えと、その……それじゃあ、話をするっす!」
照れをごまかすような感じで、ライハは声を大きくした。
「……今までアニキやみんなに語った自分の話は、嘘じゃないっす。魔族だけど人間を敵視してなくて、それ故に居場所がなくて。仲間に捕まって変な実験をされて、そこをアニキ達に助けられた……その話は本当っす」
「うん」
「ただ、全部を話してなくて……どうして自分が捕まったのか、それについては、実は心当たりがあるっす」
「それが、四天王候補だった……っていうこと?」
カナデが尻尾を『?』の形にしつつ、そう尋ねた。
「自分、こう見えて、それなりに強いっす。腕に自信があるというか……ちょっと変わった能力を持っているので」
「それが、雷を操る能力?」
「はいっす。攻撃、防御、補助……色々なことに応用ができて、汎用性の高い能力っす。小さい頃は負けなしで、ちょっと調子に乗るくらい力があったっす」
「……影を武器にする能力は?」
「あれは、知り合いに教えてもらったものっす。雷の能力を公にすると、四天王候補だったことがバレやすいので……普段は隠していたっす」
ライハ曰く……
雷を操るという強力な能力を持っている。
それがきっかけとなり、四天王候補に選ばれた。
しかし、彼女はそんなものは望んでいない。
人間を敵視することはないし、争いも望んでいない。
ただただ、家族と平和に暮らしたいだけなのだ。
ただ、魔王軍はそれを許してくれない。
戦う力があるのならば、それを振るうことが強者の義務だ。
戦場に出なければならない。
人間を殺さなくてはならない。
そう言って、ライハに戦いを強要してきたという。
ライハはそれが嫌で、あちらこちらを逃げ回り……
しかし、ついには逃げ切れず、捕まってしまったという。
「だから、その……自分は魔族に狙われている立場なので、一緒にいたら、アニキやみんなに迷惑を……」
「はい、その先は禁止よ」
「ふがっ」
タニアがライハの口を塞いだ。
かなり強引だったので、妙に間の抜けた声がこぼれてしまう。
「自分のせいで、とか、一緒にいると、とか……そういうつまらないことは考えないの」
「で、でも……!」
「ライハには悪いけど、そんなのつまらない小さな悩みよ」
「にゃー……それはさすがに、直球すぎない?」
「でも、本当にそうじゃない。考えるまでもない、悩むまでもない問題よ」
「ふふ、そうですね。言い方は少し乱暴ですけど、ソラは、タニアの考えに賛成です」
「我もなのだ! あまり細かいことを気にしていたらダメなのだ」
「まあ、そういうことだ。そんなこと、誰も気にしていないさ」
話をまとめるように言って、俺はライハをまっすぐに見る。
「第一、俺達は仲間だろう?」
「……あ……」
「仲間なら、困っているのなら助けるのは当たり前。ライハが言うように迷惑をかけられたとしても、それはお互い様。そこに負い目を感じる必要なんてない」
「……アニキ……」
「そもそも、俺達は魔王軍から目をつけられているだろうからな。敵が増えたとしても、今更、って感じだよ」
「うぅ……」
みるみるうちにライハの瞳に涙が溜まる。
それは、ほどなくして決壊して……
「うわぁあああああんっ、アニキーーー!!!」
ライハは泣きながら抱きついてきた。
今まで、どうしていいかわからなくて。
後ろめたい気持ちを抱えていて。
子供のように怯えていたのだろう。
そんなライハの心が少しでも楽になってほしいと、しっかりと抱きとめて、優しく頭を撫でるのだった。