作品タイトル不明
753話 抱きしめられた
「おまたせ」
しばらくしてリファが姿を見せた。
頬を朱色に染めているのがわかる。
照れている……のだろうか?
以前は、まるで気にしていなかったのだけど……
って、観察をしている場合じゃない。
「ごめん!」
改めて謝罪をする。
「リファは寝てると思ってて、水浴びをしているとは思わなくて……ああもう、言い訳しか出てこないな。とにかく、本当にごめん!」
「……大丈夫。気にしていない」
なんてことを言うものの、リファの顔は赤いままだ。
今までにない反応に、ついつい戸惑ってしまう。
ただ、リファ本人も困惑しているみたいだ。
うまく感情をコントロールできていない様子で、ちょくちょく小首を傾げている。
「なにかお詫びというか、俺にできることがあればなんでもしたいんだけど……」
「なんでも?」
「許してもらう立場でこんなことを言うのはなんだけど、俺にできる範囲で……」
「……」
リファは、じっとこちらを見つめてきた。
なにか期待するような瞳だ。
俺になにを求めているのだろう?
「……なら」
ややあって、リファは小さな口を開いた。
「今度、デートして」
「え?」
「デート」
「えっと……」
そんなことでいいのか?
というか、それはお詫びになるのか?
「わかった。デートしよう」
「うん、約束」
戸惑うものの、リファがそれを望んでいるのなら……と、俺は応えることにした。
宿場街などでタイミングを探してみよう。
「戻ろ」
「あ、ああ……」
気がつけば、いつものリファに戻っていた。
淡々としてクールで、ほとんど表情が変わらない。
うーん。
さっき、頬を赤らめて恥じらっていたのは幻覚……?
でも、そんなことは……
「っ!? リファ!」
「え?」
不意に鋭い殺気を感じて、慌ててリファを抱き寄せた。
それと同時に、茂みから黒い影が飛び出してくる。
「ガァッ!」
巨大な虎のような魔物……キラータイガーだ。
俺とリファという獲物を狩るために、じわりじわりと距離を詰めていたのだろう。
リファの水浴びの件で動揺していたため、周囲に注意を払っていなかった。
失敗だ。
でも……
「甘い!」
初めて遭遇した時は手も足も出なかったけど、あの頃の俺とは違う。
キラータイガーの突撃を余裕をもって回避。
すれ違いざまに首に蹴りを叩き込み、その体を魔石に変えてやる。
「ふう……ちょっと驚いたな。リファ、怪我はないか?」
「……」
「リファ?」
腕の中のリファがおとなしい。
身を縮こまらせていて……
それと、再び顔が赤くなっている。
「大丈夫か? もしかして怪我を……」
「怪我は……していない」
「そうなのか? なら……」
「だ、大丈夫」
リファは、そっと俺から離れた。
大丈夫というわりに、なんだか様子がおかしいのだけど……
「……レインに抱きしめられた……ドキドキ」
「え?」
「なんでもない」
「えっと……」
なんでもあるように見えるのだけど……
でも、なぜか追求してはいけない気がして、それ以上は言葉が出て来ないのだった。