作品タイトル不明
752話 リファの恥じらい
足音を殺して、気配も殺して。
林道をゆっくりと歩ていく。
そろそろ湖が見えてくる。
そこにいるのは、盗賊か?
それとも、まったく関係ない人か?
あるいは……魔族、とか?
緊張しつつ前に進み……
そして、湖に到着した。
「……」
湖の中に人影が見えた。
その人影の正体は……リファだ。
普段はまとめている髪は、今はほどいている。
ふわりと広がる銀色の髪の半分が湖に浸り、濡れていた。
月明かりが水滴に反射してキラキラと輝いている。
それは月の女神のようだ。
「誰?」
「あっ……」
こちらに気づいた様子で、リファは鋭い目になる。
というか、まずい。
これじゃあ俺は、覗きをしているような……いや、実際しているか。
逃げるわけにはいかないし……そもそも、逃げたら血の矢が飛んできそうだ。
とにかく、謝らないと。
「俺だよ」
視線は明後日の方向に逸らしつつ、前に出た。
「レイン?」
「ごめん、覗き見をするつもりはなくて、様子を見に来ただけで……ああもう、言い訳だな。本当にごめん……!!!」
深く頭を下げた。
リファは許してくれるだろうか?
でも……
初めて会った時、簡単に肌を見せていた記憶がある。
そのことを考えると、そこまで気にしていないかも?
って、そういう都合のいい考えはやめよう。
今は誠心誠意謝るだけだ。
「……リファ?」
許すとも許さないとも、いつまで経っても反応が。
不思議に思い、呼びかけてみるものの、やはり返事がない。
ものすごく怒っている?
それとも、気にしていない?
あるいは、突然、意識を失っている……とか?
「リファ? 聞こえているか?」
返事はない。
「……リファ?」
大丈夫なのだろうか?
どうしても気になってしまい、そっと顔を上げた。
「……ふぁ……」
リファは、特に何事もなく無事だ。
ただ……
なぜか、その頬は朱色に染まっている。
瞳は潤んで、眉はへの字になっていた。
「……レイン」
「あ、ああ……」
「服を着るから、あっち向いて」
「そ、そうだよな!? ごめん!!!」
改めて謝罪をしつつ、俺は慌ててこの場を後にした。
――――――――――
「……」
一人になったリファは着替えるわけでもなくて、水浴びをやめるわけでもなくて、その場にぼーっと立ち尽くしていた。
そっと、自分の頬に手をやる。
「温かい。熱い?」
続けて、胸元に手をやる。
「ドキドキしてる」
リファは小首を傾げた。
どうして頬が熱いのか。
どうして胸がドキドキしているのか。
原因として考えられるのは、レインに裸を見られたからだろう。
しかし、今更の話だ。
初対面の時、風呂で裸を見られた。
それがどうした?
ただ、裸を見られただけ。
別になにかが減るわけでもない。
気にすることなんてなにもない。
だから、最初の時も気にすることなくて、なんとも思わなかったのに……
「ボク、どうして……」
今は、こんなにも胸がドキドキした。
恥ずかしい、と思うのだった。