作品タイトル不明
750話 じー
レイチェルの夢……というべきか。
そんな彼女の力が消えたことで、ラウドネアは元に戻った。
壊れた家が並び、草木が伸び放題になっていて……
荒れ果てた廃村が広がる。
その寂しい光景をなんとかしたくて、一日かけて村を綺麗にした。
それと、みんなの墓を作り……
「行ってきます」
最後に村のみんなに挨拶をして、俺達はラウドネアを旅立った。
――――――――――
馬車を走らせて、東へ向かう。
行きは精霊族の里を経由できなかったけど、帰りは別だ。
三日ほど進んだところに門があるらしく、そこを目指していた。
「って……精霊族の里をすっかり移動手段として利用しているけど、いいのかな」
「かまわないのだ。レインの役に立てるのなら、長も進んで協力するだろう」
「なんだかんだ、長はレインのことを気に入っていますからね。移動手段として里を利用しても、大して気にしないかと」
「うむ。ツンデレというやつだな」
そう……なのか?
ルナは、ちょくちょく適当なことを言うんだよな。
まあ、ソラも同じことを言っているから、本当に大丈夫なのだろう。
それはそれとして。
「じー」
後ろの方から視線を感じる。
馬に注意して手綱をしっかりと握りつつ、ちらりと後ろを見る。
「じー」
リファと視線が合った。
彼女はひょこっと顔だけを出して、こちらをじっと見つめている。
「えっと……リファ?」
「なに?」
「俺になにか用か?」
「ううん、特に用はないかな。話もないよ」
「なら、どうしてさっきから……」
「気にしないで」
「気にしないで、と言われても……」
里を出た辺りから、ずっとこんな調子だ。
気がつけばリファの視線を感じている。
最初は俺の血を飲みたいのかな? なんて思っていたのだけど、そうではないらしい。
吸血衝動は関係ない様子で、常に俺のことを目で追いかけている。
いったい、なんだろう?
その理由も、そうなる原因もまったく心当たりがない。
「にゃー……これは、もしかして」
「要注意ね」
なぜか、カナデとタニアが警戒していた。
ほんと、なんだろう?
――――――――――
夕暮れ。
無理はいけないということで、レイン達は見晴らしの良い場所で馬車を止めて、野営の準備に取りかかった。
三つのグループに分かれて、一つは食料や水の調達。
一つは野営の準備。
一つは魔物などの対策として罠などを設置する。
そうして野営の準備が進んでいたのだけど……
「ねえねえ、リファ」
食料と水の採取に出たカナデは、同じグループのリファに声をかけた。
他に、タニアとティナ、イリスがいる。
「なに?」
「今日……というか、少し前からレインのことをずっと見ているよね。どうして?」
「わからない」
「わからない、って……あんたねえ。なにか理由があるから、レインのことを見ていたんじゃないの?」
「でも……わからない」
本気でわからないらしい。
いつも無表情のリファは、本当に珍しく、困った様子で眉をたわめていた。
「気がついたら、レインのことを目で追っている。理由はわからない」
「ふむふむ。その時、どんな感じなんや?」
「わからない……今まで感じたことのない気持ち」
「ほほう」
ティナがニヤリと笑う。
「いつから、そのようなことになったのですか?」
「……レインが家族と別れたところを見た時から」
イリスの問いかけに、リファは少し迷いつつ答えた。
「ボクの知るレインはいつも強くて、涙を見せない。立派な戦士。でも……」
リファは、そっと胸元に手をやる。
「あの時のレインは、とても悲しそう。寂しそう」
「……そうですわね」
「レインは万能じゃない。辛い時は辛い。それがわかって……なんだろう? 上手く言えないけど、なんとかしたい、って思うようになった」
リファが抱いている感情は、母性に近いものだ。
レインは完璧な存在だと思っていた。
しかし、そんなことはなくて、どこにでもいるような人間と変わらない。
弱いところがあって、辛い時は涙を流す。
その事実を知って、リファはなんとかしたいと思った。
その涙を止めてあげたい。
辛い時は寄り添ってあげたい。
守ってあげたい。
……そういう感情だ。
ただ、リファはかなりマイペースな性格をしているため、その感情をまったく理解していない。
故に、レインのことを目で追いかけて……
追いかけるだけで終わり、それ以上、なにかすることはない。
できることがない。
「これは、なんていうか……」
「はあ、仕方ないわね」
あまりにも不器用なリファの姿を見て、カナデとタニアはため息をこぼした。
ティナとイリスも苦笑している。
「いい、リファ?」
タニアは腰に手をあてて、子供にものを教える教師のように言う。
「リファが、今、胸に抱えている感情の正体をあたしは知っているわ」
「そうなの? これはなに?」
「ズバリ……恋よ!」