作品タイトル不明
746話 消える運命
レイチェルの純粋な祈りが起点となって、ラウドネアは復活した。
ただ、そこに流れ込んできた謎の力は、ラインハルトが用意したものだ。
そして……
ラインハルトが去った今、その力は遅かれ早かれ枯渇することになるだろう。
その時……村は消えてなくなる。
「……」
翌朝。
朝早く起きた俺は、村を一望できる丘にいた。
誰もいない。
俺一人だけだ。
あと、どれくらいの時間が残されているのか?
それはわからないけど、もうすぐこの村は消える。
父さんも母さんもレイチェルも……
この数日、確かにいたはずの村のみんなは、霧のように消えてしまう。
それが当たり前のこと。
みんな、すでに死んでいるのだから、消えるのは当たり前のこと。
だけど……
「はぁ……」
ため息をこぼさずにはいられない。
「どうしたの、レインくん?」
「レイチェル?」
振り返ると、いつの間にかレイチェルがいた。
いつもと変わらない様子で、優しくて温かい笑みを浮かべている。
「どうしてここに?」
「レインくんを見かけて、こっそりつけてきちゃった。えへ♪」
「まったく……人の後をつけないように。かわいく言ってもダメだからな」
「むう、レインくんってば厳しい」
唇と尖らせるレイチェルは、思い出の中とまったく変わらない。
あの頃のままだ。
でも、それはとても歪なことで……
元に戻すのが自然なことなのだろう。
「よいしょ」
レイチェルは俺の隣に移動して、腰を下ろした。
そのまま、ぱんぱんと地面を叩く。
「レインくんも座って」
「えっと……?」
「いいから、ほら!」
「わかったよ」
言われるまま、レイチェルと肩を並べて座る。
すると、レイチェルがこてんと体を傾けて、こちらの肩に寄りかかってきた。
「どうしたんだ?」
「えへへー、なんとなくこうしたい気分なの」
「そっか」
「ねえねえ、覚えている? よくこうしたよね」
「……今、同じことを考えていたよ」
レイチェルは俺を引っ張ってくれるような活発な性格をしていたけど……
でも、二人きりの時は猫のように甘えん坊になっていた。
ちょくちょく抱きついてきて、体を寄せてきて、一緒にいることを望む。
その時の笑顔は太陽のように輝いていて、とても明るくて……
それを、俺はずっとずっと忘れないだろう。
「……」
レイチェルに告げないといけない。
もう村は長く保たない。
レイチェルを含めて、みんな消えてしまう。
そう告げないといけないのに、うまく言葉が出てこない。
なにも言うことができない。
だって……レイチェルは、一度死んでいるんだ。
奇跡が起きて、もう一度目を開けることができて……
でも、それはほんの少しの間だけ。
すぐにまた眠りについてしまう。
そんなことを告げるなんて、俺は……!
「あのさ、レインくん」
「……ああ」
「この村のことは好き?」
「もちろん」
「そっか、よかった」
レイチェルはにっこりと笑い、言う。
「なら、忘れないでほしいな。時々でいいから、村や私のことを思い返してほしいな」
「レイチェル……?」
「ちょっとわがままなお願いだけど、私達、レインくんの大事な思い出になりたくて……酷なことを言うかもしれないけど、レインくんの心にいさせてもらってもいい?」
彼女は、とても穏やかな顔をしていた。
それは、全てを受け入れた殉教者のような顔をしていて……
「レイチェルは、まさか……」
「うん」
レイチェルは静かに頷いた。
「私達、もうすぐ消えちゃうんだよね?」