作品タイトル不明
744話 ラインハルトの目的
ラインハルトが手を差し出してきた。
しかし、その手を簡単に取ることはできない。
彼がなにを考えているのか。
どこを最終目標に設定しているのか。
色々と聞かなければいけないことが多い。
「その前に聞かせてほしい。あんたは、なにをするつもりなんだ?」
「……」
ラインハルトはすぐに問いかけには答えないで、遠くを見た。
その視線はとても悲しそうで……
それでいて、鋼を折り束ねたかのような、強靭な意思を感じられた。
「俺には、かつて友がいた」
「……」
「その友は、人間ではない。最強種でもない……神と呼ばれている存在だ」
やっぱり……か。
ラインハルトの正体と過去を知り、そんな感じはしていた。
「神は人間を愛していた。最強種を愛していた……もちろん、魔族も」
「ただ、その輪が壊れるような事件が起きた」
「そう、魔族は世界の敵となり、魔王という『呪い』が誕生した。これがある限り、平和が訪れることはない。幾度も戦いが繰り返されて、それは未来永劫続くだろう」
人間が魔族を滅ぼそうとして……
そして、魔族は魔王という『概念』を生み出した。
結果、終わることのない戦いが続いている。
今も争いが続いている。
「俺は、この戦いの連鎖を止めたいと、そう願っていた。その方法を探すために不老となり、世界を旅してきた」
「それは……見つかったのか?」
「ああ」
ラインハルトはしっかりと頷いた。
彼の言葉が本当なら。
その知識が間違っていないのなら。
これ以上ないほどの朗報になる。
しかし……
なぜだろう?
妙な胸騒ぎが広がっていく。
ひどく落ち着かない気持ちになる。
「魔王という『概念』を滅ぼす方法は見つけた。準備は大変だが、やってやれないことはない」
「俺に、その手伝いを?」
「いや。本当に手伝ってほしいことは、もう一つの目的の方だ」
「もう一つ?」
ラインハルトは俺に視線を戻した。
その目は刃のように鋭く。
何者も触れさせないような、冷たさを秘めていた。
「俺の本当の目的は、ただ一つ」
そして、言い放つ。
「人間を滅ぼすことだ」
その宣告は死神が放つもののようだった。
それだけの意思。
覚悟を秘めた言葉だ。
「……どうして、そんなことを?」
「レインならわかるだろう?」
「……」
なんとなく、ラインハルトの言いたいことを理解した。
色々な冒険をして。
旅をして。
そうする中で、世界の裏を見てきた。
人間がやらかしてきたことを知った。
天族のこと。
不死鳥族のこと。
魔族のこと。
俺が知らないだけで、他にも事件が起きているのかもしれない。
人間は罪を重ねてきた。
深い業を積み重ねてきた。
当初、ラインハルトは世界を救うことを考えていたのだけど……
そんな現実を目の当たりにして、救う対象から人間を除外したのだろう。
気持ちはわからないでもない。
わからないでもないけど……
「そんなバカなこと、本気で考えているのか?」
「もちろん」
即答だった。
「魔王が誕生した時……俺は、命を賭けて戦い、人間を守った。愚かな者はいる。それでも、まだ救いはあると、そう信じていた。いや、信じたかったのかもしれない。しかし……」
ラインハルトは、はっきりとした失望の感情を顔に乗せて、首を横に振る。
「人間は救いようのない存在だった。自分達を助けてくれた存在を平気で裏切り、幼子の命を奪ってまで生きながらえようとして……他にも、数え切れないほどの業を重ねてきた。俺は、それをこの目で見てきた」
「……」
「だから、滅ぼすことにした。人間こそがこの世界の邪悪であり、いらない存在だと理解したからだ」
ラインハルトの決意は固いみたいだ。
今まで、ずっとずっと悩んできたのだろう。
長い間、迷い、考えて……
そして、果てに出した結論なのだろう。
俺の言葉でそれが変わるなんて、考えられないけど……
それでも言わずにいられない。
「友達のことはどうするんだ?」
「……」
「その時の詳細は知らないけど……託されたんだろう? 世界と人間のことを守ってほしいって、そう約束したんじゃないか? なら……」
「……いない」
「え?」
「友は……もう、いない」
それは、つまり……
神は死んでいる……?