作品タイトル不明
743話 種を巻いた者
三日後。
村は襲撃の被害から立ち直りつつあった。
そこまで大きな被害は受けていなかったこと。
人的被害も少なかったこと。
それらのおかげで、予想以上に早い復旧ができそうだ。
ただ……
「……いや」
復旧に意味があるのだろうか?
そんなことを考えてしまうけど、やめた。
その先は、今は考えたくない。
それよりも……
「懐かしいな」
俺はみんなに断りを入れてから、一人、村の外に出た。
遠出をするつもりはない。
やってきたのは、小さい頃、ビーストテイマーの訓練をしていた広場だ。
犬や猫のテイムに大苦戦したり。
狼を怖がり泣いてしまったり。
色々な思い出が自然と蘇ってくる。
とはいえ、昔を懐かしむためにやってきたわけじゃない。
「……いるんだろう?」
呼びかけてみる。
「話をしたい……というよりは、色々と教えてほしい。どうしてこんなことをしたんだ……なあ、ラインハルト?」
「気づいていたか」
姿を見せたのはラインハルトだ。
あの時と同じように、突然、音もなく姿を見せる。
「レイチェルに力を与えた者。それと、あのダンジョンを作った者。それは……ラインハルトだな?」
「正解だ。いつ気づいた?」
「昔の記憶を取り戻した時に」
記憶を取り戻したら、あとはもう簡単だ。
ダンジョンに封印されていたのは、ラインハルトが語る魔族の真実。
ならば、そのダンジョンを作成したのはラインハルト以外にありえない。
他の者がそんなことをするメリットがない。
レイチェルに力を与えて村を復活させたのは、俺を誘うためだろう。
故郷が元に戻ったなんて知れば、絶対に無視できないからな。
「あんたは、俺に魔族の真実を伝えたいと思った。だから村を復活させてダンジョンを作って……やたら遠回りな方法なのは、俺を試していたのか?」
「それも正解だ」
「……わからないな」
ラインハルトは、俺に魔族の真実を伝えようとした。
ただ、なぜそうしようとしたのか?
その意図が読めない。
「昔、俺にビーストテイマーとしての心得などを教えてくれたのは?」
「あれは、本当にただの気まぐれだ。不老になったとはいえ、心はある。故郷が懐かしくなって様子を見に行ったら、たまたまお前と出会った。本当にそれだけだ」
「そっか」
故郷を懐かしく思う、という言葉に、どこかほっとしている自分がいた。
ラインハルトは、時折、人形のように感情を見せないところがあるが……
そんなことはなくて、きちんと心があるようだ。
……まあ、不老になったとか新しい情報が出てきて、混乱もしてしまうが。
「ラウドネアが滅んだのは……後悔しかない」
そう語るラインハルトは、わずかに顔を歪めていた。
きっと、その胸中には激情があふれているのだろう。
でも、鋼鉄の意思でそれを抑え込んでいて……
だけど、抑えきれない感情があふれているようだった。
「勇者の血を絶やすため、魔族は村を狙ったのだろうな。ラウドネアのことは誰も知らないはずだから……と油断していた。しっかりと対策を練るべきだった。あるいは、血を残すべきではなかったのかもしれない。そうすれば狙われることも……」
「そんなことはないさ」
途中だけど、彼の言葉を否定する。
「血を残してくれなかったら、村ができることはなかった。俺も父さんも母さんも友達も……誰も生まれなかったと思う。だから、そこは否定しないでほしい。あんたがしたことは命を次に繋げることで、誇ることだ。決して悪いことなんかじゃない」
「……そう言ってもらえると助かる」
若干、ラインハルトの表情が柔らかくなった。
今の俺の言葉で、心の枷がいくらか解き放たれたのだろうか?
「話を戻そうか。ラインハルト、あんたは、いったいなにをしたかったんだ?」
「やりたいことはシンプルだ。お前に真実を知ってほしかった」
「どうして俺なんだ?」
魔族の真実という大事な話をするべき相手は、他にたくさんいる。
王やユウキやサーリャさま。
シフォン達、現勇者。
みんなで話し合うべき問題だ。
そう言うと、ラインハルトは首を横に振る。
「それはダメだ。俺は、人間に期待はしていない」
「なら……」
「レイン、お前は別だ。お前は俺の想像を遥かに超えて成長して、そして、数多の最強種と絆を結ぶことに成功した。そんなレインだからこそ、俺は、真実を打ち明ける気になった」
「……」
いったい、ラインハルトはなにがしたいのだろう?
どんな目的を抱えて、どこを最終地点と設定しているのだろう?
「俺を試して、真実を打ち明けて……なにがしたい?」
「簡単だ」
ラインハルトは手を差し出してきた。
「仲間になってくれないか?」