作品タイトル不明
734話 支えられることは誇るべきこと
「……」
家の外に出て夜風を浴びる。
夜の風は涼しくて、ちょっと寒いくらいだ。
でも、それが今はちょうどいい。
「どうしたらいいんだろうな……?」
魔族は過去に人間に虐げられていた。
……いや、そんな生易しい言葉じゃない。
酷い扱いを受けて、世界の敵にされて……
そして、全てを奪われることになった。
その憎しみが今に続いていて……
魔族の原動力となっている。
「魔族の怒りや憎しみは当たり前のものだ。昔のことだからって、関係ないとか言えない。でも……」
おとなしく殺されるべきなのか?
蹂躙されるのを良しとするべきなのか?
「……はあ」
あれこれと考えてみるものの、答えは見つからない。
ついつい重いため息をこぼしてしまう。
「レイン」
「母さん?」
振り返ると、母さんの姿があった。
「どうしたの、こんなところで?」
「えっと……ちょっと涼んでいたんだ。母さんは?」
「みんなの治療がだいたい終わったから、家に帰ってきたのよ」
「そっか……父さんは?」
「お父さんは、まだまだがんばっているわ。もう少しやらせてほしい、って」
「そうなんだ」
父さんらしい。
決して妥協することはなくて、なにに対しても一生懸命にぶつかる。
「それで、レインはなにを悩んでいるのかしら?」
「え?」
「悩みがあるんでしょう?」
「それは……」
さすがというべきか。
親に隠し事はできず、俺は、ついつい目を反らしてしまう。
親に相談はしたくないとか。
相談することが恥ずかしいとか。
そんな子供のような感情じゃない。
抱えているものが複雑すぎるので、どうしても話しづらくなってしまうのだ。
ただ、一人で抱えておくことも難しく……
遠回りな内容で話をする。
「……なんていうか」
「ええ」
「今まで、俺は正しいことをしてきたと思っていたんだ。いや、それも違うか。わがままを押し通してきたんだよな……」
イリスの件なんて特にそうだ。
あれは、俺のわがまま以外の何者でもない。
ただ……
「……それでも、正しくあろうとしてきたんだ」
困っている人がいるのなら助けたい。
理不尽な現実が襲ってきたら、諦めることなく抗いたい。
それは『正しい』ことであると思う。
「でも、それは間違っていた」
悪と認識していた魔族は、実は最強種で……
人間を敵視するのは、きちんとした理由があった。
「悪と思っていたものは悪じゃなくて。正しいことをしてきたはずなのに、でも、それが本当に正しいかわからなくて……どうするべきか、わからなくなったんだ」
ちゃんと説明をしていないし、事情を知らない母さんからしたら、訳がわからない話だろう。
でも、母さんは不満を見せることはなくて、そっと隣に並ぶ。
「レイン」
「うわっ」
俺を抱き寄せて、ぎゅうっとした。
「えっと……か、母さん?」
「照れないで、そのままでいなさい。子供は親に甘えるものよ」
「甘えるというか、強制的に……というか、俺はもうそんな歳じゃないんだけど」
「親にとって、子供はいつまで経っても子供のままなのよ」
ものすごく恥ずかしくて、照れくさい。
でも……
こうしていると、とても温かい気持ちになることができた。
「やりたいようにやるのが一番じゃないかしら?」
「え?」
「レインは難しく考えすぎなのよ。もっと簡単に考えてみたら?」
「簡単に、って言われても……」
「レインがやりたいことはなに? なにを大事にしたいの?」
「それは……」
問われて考える。
俺は……
「……みんなを守りたい」
「ええ」
「大事な仲間なんだ。誰一人、失いたくない。ずっと一緒にいて、一緒に笑っていたい」
「ええ」
「もちろん、仲間だけじゃない。友達も家族も……レイチェルも守りたい。大事な人がいなくなることは、もう嫌なんだ。悲しんでいるところも見たくないんだ」
「ええ」
「……ああ、そっか。そういうことか」
俺は、俺のやりたいことを思い出した。
もう一度、その想いを胸に宿すことができた。
魔族の境遇については同情する。
人間に非があると思うのだけど……
でも、仲間や家族、友達を差し出すことはできない。
ここで非を受け入れて、魔族に殺されるような道を選んだとしても……
それじゃあ、みんなは助からない。
大事な人達がいなくなってしまう。
それだけはダメだ。
絶対にダメだ。
なんてわがままなのだろう。
エゴもエゴだ。
ひどく身勝手で、最低だと思う。
それでも……
人間が間違った存在だとしても。
俺は、大事な人を守るために戦いたいと思う。
「母さん、ありがとう」
そっと母さんから離れた。
「その顔、答えが見つかったみたいね?」
「ああ。母さんのおかげだよ」
「どんな答えか聞いてもいい?」
「えっと……わがままでもいいか、って開き直ることにした、っていう感じかな?」
「あら」
「ひどい答えだけど……でも、これが俺の本心だから。もう、この手からなにもこぼしたくないから……だから俺は」
大事なものを守るために戦う。