作品タイトル不明
733話 迷い、迷われ
「そういえば、ライハは知っていた?」
ふと、思い出した様子でリファがそう尋ねた。
ちょっと言葉が足りないけど……
ダンジョンの奥で聞いた話を指しているのだろう。
「ここまでは知らなかったのであります。というか、詳細は伝えられていないというか……」
「どういうことなのだ?」
「過去が正しく伝わっていないというか、伝えられていないというか……なにが起きたか、はもうどうでもいい感じです。ただただ、人間が憎い、という感情だけが残っている感じでしょうか?」
もしかしたら……
昔の魔族は、人間と分かり合うことを止めたのかもしれない。
そんなことは絶対にないと、完全に袂を分かつことになったのかもしれない。
ずっとずっと敵と定める。
未来永劫、戦い続ける。
戦いの終わりは、どちらかが滅びるまで。
そう決めたから、詳細を伝えることは無駄と考えて……
憎しみだけを伝えていったのかもしれない。
ふと、そんなことを思った。
「でも、なんで私達最強種も敵視されているのかな?」
カナデが小首を傾げつつ、そんな疑問を口にした。
言われてみると不思議だ。
人間が罪を犯したのであって、最強種は関係していないはずなのに。
「んー……あくまでも中立を貫こうとしたから、でありましょうか?」
推測混じり、という感じでライハが言う。
「魔族が苦しんでいるのに、他の最強種は仲裁を望むばかりで、直接、味方になってくれなかった。だから、見捨てられたのかと感じたのかもしれないです。まあ、自分の推測でありますが」
「けっこう当たってるかもしれないわね、それ」
「……」
「フィーニア、どうしたん?」
「に、人間に裏切られて、仲間にも見捨てられたと思って……当時の魔族は、どんな気持ちだったのかな、って……うぅ」
感情移入してしまったらしく、フィーニアは泣きそうな顔をしていた。
そんな彼女を見ていたら、俺達も、なんともいえない気持ちになってしまう。
そんな中、カナデが口を開く。
「レインは……そういう事情を知ったから、戦うことに迷っていたの?」
カナデには全部お見通しだったらしい。
いや、カナデだけじゃないか。
他のみんなも全て理解している様子で、とても複雑な表情をしていた。
「そう……だな」
魔族は全ての生き物の天敵と言われてきたけど……
でも、そうなった原因は人間にある。
全ての罪がある。
魔族は悪じゃない。
むしろ、人間の方が悪だ。
その真実を知った今、俺は……
「……」
みんなも考えるような顔をして、うつむいてしまう。
同じく、答えが見つからないのかもしれない。
「わたくしは、戦いますわ」
そんな中、イリスがそう言った。
場の空気?
そんなものは知らないとばかりに、我を貫く発言だ。
「人間と魔族の因縁は理解しましたが、だからといって、彼らの復讐のためにこの身を捧げるつもりはありませんわ」
「……イリス……」
「想いは痛いほどにわかります。ええ、わかりますとも。ですが……わたくしはわがままなのです。降りかかる火の粉は払うだけですわ」
たぶん、だけど……
イリスは、俺のことを励ましてくれているんだと思う。
色々と考えるところはあるだろうけど、今は、自分のことを考えてほしい……と。
そう伝えてくれているんだろう。
強い。
とても強い。
でも、俺は……
「……ごめん」
「レイン?」
「ちょっと、色々と考えすぎて頭がぼーっとしてきた。外の空気でも吸ってくるよ」
答えを見つけることはできなくて。
迷い続けたままだ。
――――――――――
「にゃー……レイン、大丈夫かな?」
「そうですね……ソラは心配です」
「わ、ワタシになにかできることがあれば……でもでも、ワタシなんかにできることは、うぅ……」
カナデ達が心配そうにする一方で、
「そんなに心配しなくても平気や」
「うん。レイン、大丈夫!」
「レインさまなら、すぐに自分の道を見つけられるかと」
落ち着いているメンバーもいた。
心配している様子はない。
そこにあるのは『信頼』だ。
「ティナ達は心配じゃないの?」
「まったく心配してない、ってことはないよ? ただなあ……」
「それ以上に、信頼をしているのですわ」
「うん、信頼」
イリスの言葉に賛同するかのように、リファがこくこくと頷いた。
「にゃん?」
その根拠は?
という感じで、カナデは尻尾をハテナマークにした。
そんな彼女に応えるように、ニーナが優しい笑顔で言う。
「だって……レインは、わたしたちのごしゅじんさま、だもん」