作品タイトル不明
732話 失意
「レイチェル!?」
どこかで様子を見ていたのだろうか?
レイチェルがやってきて、俺をかばうように両手を広げる。
「うーーーっ!!!」
レイチェルはゼクシードを睨みつけて、犬のように唸る。
思わぬ展開なのは向こうも同じだったらしく、ゼクシードはキョトンとした。
「なぜ、このようなところに人間の子供が……?」
「レインくんをいじめないで! この村から出ていって!」
魔族が相手なのに、レイチェルはまったく怯んでいない。
それどころか、その気迫で、ほんのわずかにだけどゼクシードを押していた。
「レイチェル、逃げるんだ! こんなところにいたら危ない!」
「レインくんを置いて逃げるなんてできないよ」
「俺のことはなんとかなるから、だから……!」
また、俺の前からいなくなるような、そんなことはやめてくれ!!!
俺は、心の中で悲鳴をあげた。
「ふむ」
ゼクシードは攻撃を続けず、興味深そうに俺とレイチェルを見る。
ややあって、ニヤリと笑う。
悪意を感じる、とても嫌な笑みだ。
「お前がアルテラを倒したと聞いているが、しかし、今は失望しか感じていない。なぜかわからないが、本気を出していない、あるいは出せないようだな」
「くっ……」
「そのような相手を殺してもつまらぬ。私が望むものは、至高の戦いだ。そのために、お前に覚悟と時間をやろう」
「なにを……っ!? レイチェル!!!」
「えっ」
ゼクシードが翼を広げて、一気に加速した。
その狙いは俺ではなくて、レイチェルだ。
彼女に軽い当て身を食らわせて意識を奪う。
それから小脇に抱えると、浮上した。
「レイチェルを離せ!」
「お前が本気を出せるというのなら、いくらでも」
「くっ……」
「一日、待つ。その間に本気で戦えるように、己を調整してみせろ。この娘は、そのための道具だ。私を再び失望させるようなことがあれば、娘の命はないと思え」
「待て! レイチェルは関係ないだろう、やめろ!!!」
「明日を楽しみにしているぞ」
それ以上話すことはないというかのように、ゼクシードは空に飛び立つ。
残っていた魔族達もゼクシードに続いて村を離れていった。
「レイチェルーーーーーっ!!!!!」
どうすることもできず……
俺は、膝をついて地面を叩いた。
――――――――――
幸いというか、村を守ることができた。
しかし、レイチェルがさらわれてしまい……
魔族の脅威なまだ残ったままだ。
あれから怪我人の治療、救助をして……
簡易的なバリケードを築いて……
一通りの作業が終わった後、家に戻る。
「「「……」」」
魔族の襲撃。
レイチェルがさらわれた。
これで終わりではなくて、むしろ、明日に本格的な侵攻が始まる。
絶望的な状況に、みんなは暗い顔をしていた。
「……そういえば、レインさまのお父さまとお母さまは?」
ふと気がついた様子で、イリスがそんなことを尋ねてきた。
「村長の家に行っているよ。みんなで、これからのことを話し合うとか」
「レインさまは参加しないので?」
「俺は……」
言葉に迷う。
レイチェルを助けないといけない。
村を魔族から守らないといけない。
それは絶対だ。
絶対……なのだけど。
「どうしたらいいのか……わからないんだ。どう、魔族と接するべきなのか……」
「む?」
ルナ達は不思議そうな顔をして……
「……」
事情を知るカナデ達は、とても複雑な表情を見せた。
そんな俺達を見たイリスは、ひとまずの現状を察したらしい。
「まずは、情報共有が必須みたいですわね。レインさま。ダンジョンの中で、いったいなにを見てきたのですか?」
「ああ、それは……」
元より相談しようと思っていたことだ。
隠す必要なんてないので、ダンジョンで見て聞いたことを、そのままイリス達に伝えた。
「それはまた、なんていいますか……」
「にわかには信じられない話ですね……」
イリス達の反応は俺達と似たようなもので、かなり動揺した様子だった。
それもそうだろう。
魔族の成り立ち。
それと、ラインハルトの正体。
どれもこれも驚きを隠せない話だ。
「んー……こう言うたらなんやけど、その話、本当なん? 証拠は?」
ティナの疑問はもっともだ。
「証拠は残されていなかった。だから、本当かどうか、って言われると断定はできないけど……」
「話の辻褄は合っているから、信憑性は高いと思うわ」
タニアの言う通りだ。
過去のラインハルトの話に矛盾点はない。
むしろ、なるほど、と納得するところが多い。
「ま、ティナの言う証拠はないけどね」
「ウチが言っておいてなんやけど、でも、無視することはできん話やな」
「そうですわね……その話が正しいのなら、人間は、遥か昔から過ちを繰り返し続けていた、ということになりますわね」
イリスが険しい表情で言う。
天族は人間によって滅ぼされた。
そんな彼女が言うからこそ、とても強い実感がある。
「ど、どうして……そんなことをしちゃうんでしょう……」
フィーニアも暗い顔だ。
詳細は伝えられていないものの、エルフィンさんから、人間に迫害されたことは聞いているはずだ。
だからこそ、色々と思うところがあるのだろう。
「そんな話を聞いたから……俺は、どうしていいか……わからないんだ」
魔族は倒すべき敵なのか?
どうしても戦わないといけないのか?
その迷いが枷となり、俺の心を縛っていた。