作品タイトル不明
729話 主のために
「イリス」
「はい?」
「あのふざけた魔族を叩き潰しますよ」
「一緒にがんばるのだ」
ソラとルナは心底怒っているけれど……
だからといって、連携もなく無謀な突撃をするほどバカではない。
様子を窺い、いつでも動けるように身構えて。
それから、イリスと連携を取ろうとしていた。
「ふふ、了解ですわ」
イリスとて、今の話は見過ごせない。
ソラとルナの怒りも理解できる……というか、同じ怒りを抱いていた。
故に、戦いに迷いはない。
三人の心は一つになり、四天王に挑みかかる。
「来い」
ゼクシードは四枚の翼を広げつつ、腰の剣を抜いた。
緑に染まる刀身はエメラルドのように輝いている。
多量の魔力が凝縮されているらしく、剣が抜かれただけなのに、その場の空気が重くなったかのような錯覚を感じた。
「ふふ、ではダンスと洒落込みましょうか」
イリスもまた、召喚魔法によって剣を呼び出した。
細いレイピア。
切っ先をゼクシードに向けて、優雅に構える。
「ソラさんとルナさんは援護をお願いできますか?」
「それは構わないのですが……」
「接近戦なんてできたのか?」
「わたくしを誰だと思っているのですか? 全ての最強種の中で、もっとも戦闘力に優れた天族なのですよ? なので……」
イリスが地面を蹴る。
超加速。
音に近い速度でゼクシードに迫り、レイピアで突く。
速度、角度、威力。
全てにおいて最高の一撃だ。
「ほう」
しかし、相手は四天王。
そう簡単に倒れるようなことはなくて、音を超えるイリスの突きを、余裕をもって避けてみせた。
「やります……わね!」
「お前もな」
イリスはさらに踏み込む。
引いて突いて、引いて突いて……
その繰り返しで、超高速の突きを連射する。
対するゼクシードは、その全てを剣で受け止めていた。
イリスの攻撃は針の穴に糸を通すかのように精密なものだけど、しかし、それ故に予測がしやすいようだ。
一撃の被弾も許すことなく、ゼクシードは全ての攻撃を防いでみせた。
「今度は私の番だな」
ゼクシードの剣は、己の背丈を超えるほどに巨大で、長い。
普通に考えるのなら、そんなものを振り回すことはできない。
持つだけで精一杯だろう。
しかし、四天王の名は伊達ではない。
「むぅんっ!」
巨大な剣を軽々と振り、イリスと同じように連撃を繰り出した。
その名の通り、風のように速い攻撃だ。
それでいて一撃一撃が重く鋭い。
まるで嵐だ。
触れるもの全てを切り刻む刃の暴風がイリスに迫る。
「ふふ」
しかしイリスもまた、余裕の態度を崩さない。
避けて、受け流して、軌道を反らして……
手品を使っているのではないか? と思うほど華麗に優雅に、ゼクシードの攻撃を全て避けてみせた。
「やりますわね」
「それは私のセリフだ。村一つ、潰すというつまらない任務と思っていたが……面白いな。お前という強敵に出会えたことに感謝を」
「わたくしは、まったく嬉しくありませんわ」
「「……」」
そんな二人の会話を、ソラとルナはぽかーんと眺めていた。
「……なあ、姉よ」
「……なんですか、妹」
「……我らは、どのようにして援護すればいいのだ?」
「……ソラに聞かないでください」
イリスとゼクシードの戦いがあまりに高レベルすぎて、割り込む隙が見当たらない。
呆然と眺めるしかない。
……と、普通ならそうなるかもしれない。
しかし、ソラとルナは精霊族だ。
最強を名乗る種族だ。
このままなにもしなければ、いい笑いものだ。
「ルナ、合わせてください」
「うむ、任せるのだ!」
二人は魔力を練りつつ、イリスとゼクシードの戦いを注視する。
小さな隙ができたとしても、迂闊に手を出すようなことはしない。
大きな隙ができたとしても、タイミングを考えて、やはり簡単に手を出すことはない。
慎重に慎重にタイミングを見計らい……
「「ドラグーンハウリング!!」」
ここぞという時で魔法を放つ。
イリスとゼクシードは互いに刃を交わしていて、深くせめぎ合っていた。
ソラとルナは、そんなところに魔法を叩き込む。
イリスごとまとめて……なんてことはない。
「ふふ」
「なっ……!?」
イリスにとってもゼクシードにとっても、完全な不意打ちのはずだった。
しかし、イリスは笑みを浮かべつつ、こうなることを予期していた様子で後退する。
一方のゼクシードは、この事態を予想することができず逃げ遅れた。
ガッ!!!
ソラとルナが放った魔法がゼクシードを直撃した。
荒れ狂う竜の幻影に飲み込まれたゼクシードは、大きく吹き飛ばされる。
さらに木の幹に激突して、いくらかをなぎ倒しつつ……ようやく止まる。
「ぐっ……」
この程度で四天王を倒すことはできない。
しかし、確かなダメージを与えることに成功した。
それを見て、ソラとルナは笑顔でハイタッチを交わすのだった。