作品タイトル不明
721話 絆を紡ぐ
ラインハルトに弟子入りした記憶なんてない。
そもそも、彼と出会った記憶すらない。
目の前の光景は過去を写し取るものではなくて、現実を無理矢理に書き換えるものだったのか?
それとも……
大きな疑問を抱きつつも、今は小さな俺とラインハルトのやりとりに集中することにした。
「まずは、お前の今の実力を見せてもらおうか」
そんなことを言われて、小さな俺は、再び犬と猫に向き合う。
「来い!」
とても初歩的な命令を下すものの、犬と猫は反応しない。
小さな俺をバカにしたような感じで、後ろ足で頭をかいていた。
「うぐぐ……来い! 来いってば!」
ムキになった小さな俺は、さきほどよりも強い口調で命令を繰り返した。
しかし、犬と猫は思うように行動しない。
だからなに? というような感じで、不遜な態度を見せるだけだ。
「来いって言ったら……!」
「待て」
さらにムキになったところで、ラインハルトが割り込む。
「だいたいわかった」
「い、今のは、その……たまたま調子が悪かっただけで……」
「強がりを言うな。うまくいかない方が多いんだろう?」
「……はい……」
小さな俺は、しょんぼりとした様子で頷いた。
それを見て、俺の中で古い記憶が掘り返される。
そう……そうだ。
小さい頃の俺は、お世辞にも動物の扱いが上手とは言えなかった。
むしろ下手な方だった。
何度命令しても従ってくれず、そっぽを向かれてしまう。
餌で釣ろうとしても、餌だけを取られてしまい、やはり言うことを聞いてくれない。
父さんと母さんは、まだ子供だから仕方ない。
焦る必要はないよ……って、励ましてくれた。
でも俺は焦り、うまくいかないことをとても悔しく思っていた。
だけど……
ある日から、途端にうまくいくようになった。
動物達が言うことを聞いてくれるようになって、昆虫などの使役もできるようになって、なにもかも全部うまくいくように。
なぜそんなことができたのか、記憶は曖昧なのだけど……
もしかして、ラインハルトのおかげ……なのか?
「ビーストテイマーに大事なものはなんだと思う?」
涙目になる小さな俺に、ラインハルトは静かに問いかけた。
「……素質とか、才能とか?」
「違うな。そんなものはどうでもいい」
「どうでもいいんですか?」
「必要ないとまでは言わないが、さほど重要ではない。それよりも他に大事なことがある」
「むう……?」
小さな俺は理解できない様子で、頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。
ラインハルトは苦笑しつつ、言葉を続ける。
「絆だ」
「絆……?」
「そう、絆だ。動物達との間に信頼を積み重ねて、友となる。そうやって絆を築くことがなによりも大事なことだ」
「……絆……」
小さな俺は、いまいちピンと来ていない様子だ。
「簡単な話だ。お前は、誰かにものを頼まれた時、どう思う?」
「それは……」
「まったく見知らぬ相手に……あるいは、敵意を抱いている相手からものを頼まれたら、受けたいと思うか? 応えたいと思うか? 逆に、友と呼べる親しい相手から頼み事をされたら、どう思う?」
「あっ」
「理解したようだな。人間も動物も同じだ。言うことを聞いてもらいたいのなら、まずは絆を築かないとならない。そこで、初めてスタートだ。わかるな?」
「はい!」
「なら、やってみろ」
小さな俺は、ラインハルトにしっかり頷いてみせた。
それから犬と猫を見て……ぺこりと頭を下げる。
「ごめんね。俺、焦って自分のことしか考えてなくて……本当にごめん!」
「わふぅ……」
「にゃー……」
「その、仲直りできないかな? まずは、そこから始めたくて……ダメかな?」
小さな俺は不安そうにしつつ、犬と猫に手を差し出した。
犬と猫はそれを見て、
「わんっ」
「にゃんっ」
嬉しそうにしつつ、小さな俺にじゃれついた。
「わっ、わわわ!?」
突然のことに、小さな俺は地面に転がってしまう。
そんな小さな俺の上に乗り、犬と猫は楽しそうに嬉しそうに遊ぶ。
心が通じた瞬間だった。
「あははっ、くすぐったいよ。あはは!」
小さな俺は口を大きく開けて笑い……
そして、ラインハルトもわずかにではあったものの、笑みを浮かべていた。
「……」
そうだ……思い出した。
確かに、こんなことがあった。
伸び悩んでいた小さな俺の前にラインハルトが現れて、ビーストテイマーに大事なものを教えてくれて……
そして、一つ殻を打ち破ることができて、俺は大きく成長することができたんだ。
「なんで……」
「レイン?」
「なんで、俺はこんなことを忘れていたんだ……?」
カナデ達が心配そうにこちらを見るものの、それに応える余裕がない。
大事な記憶がすっぽりと抜け落ちていた。
今の今まで、そのことに気づくことがなかった。
いったい……どういうことなんだ?