作品タイトル不明
718話 惨劇の犯人
村が炎に包まれていく。
人が倒れていく。
それを見ることしかできない。
俺は、なにもできない。
一種の拷問みたいだ。
心が擦り減り、精神が削り取られていく。
でも……大丈夫だ。
「うん」
カナデがにっこりと笑ってくれた。
みんなも、優しい表情を向けてくれる。
俺は一人じゃない。
みんながいる。
だから、がんばることができる。
どうしてこんな光景を見せられているのか、その意味はわからないけど……
でも、なにかしら理由があるはずだ。
「……」
俺は逃げ出したい気持ちを必死で我慢して、目の前で繰り広げられる惨劇を見る。
そして……
「なんだ、あいつは……?」
新たに見たことのない魔族が現れた。
天族に似た翼を持っているけれど、その色は黒だ。
悪意を凝縮したかのような、深い深い闇だった。
翼を持つ魔族が現れると、他の魔族が一斉に膝をついて頭を下げた。
魔物達ですら、一度、暴れるのを止めて頭を下げる。
「なんだろう、あいつ? すごく嫌な感じがするけど……」
「村を襲った犯人達のボス、っていうところかしら?」
「殴りたい」
「おし、おき」
普段穏やかなリファとニーナも怒っていた。
「おぉ?」
そんな中、ライハだけは反応が違っていた。
「まさか、こんなところであの方を見かけるなんて」
「ライハ、知っているのか?」
「あいつ、四天王であります!」
「「「えっ!?」」」
思わぬ情報がもたらされて、カナデ達と一緒になって驚いてしまう。
「風を司る……えっと、なんだっけ……? やばい、ど忘れしたのであります」
「なんで忘れちゃうの!?」
「思い出しなさい、大事なところでしょ!」
「あわわわ、じ、自分は頭の容量が少なくて……うぅ、ごめんなさいです」
カナデとタニアにガクガクと揺さぶられて、ライハはしょんぼりとした。
「二人共、落ち着いて」
「あ……ご、ごめんね、ライハ」
「大事なことだから、つい……」
「ふぅ……いえ、大丈夫ですす。ちょっと驚いただけで、まあ……二人の気持ちもわかるので」
ライハも、思い出すことができないことをもどかしく思っているみたいだ。
背中の羽が、しょんぼりと垂れ下がっている。
「気にしないでくれ」
「あ」
言葉と一緒にライハの頭を撫でる。
「普段意識していないことを思い出すのは難しいし、そこまで気にしていないよ。だから、ライハも気にしないでくれ」
「あ、アニキ……アニキー!!!」
ライハは、感極まった様子で抱きついてきた。
カナデとタニアとニーナが、「!?」と敏感に反応するものの、これは見逃して欲しい。
ライハとしては、ただ単に親愛を示しているだけで……
あれ?
カナデとタニアはともかく、なんでニーナまで反応するんだ?
「うん?」
そんなことをしていると、ふと、周囲の光景が揺らぎ始めた。
空間が波打ち、それはゆっくりと大きくなって……
そして、一緒に色が消えていく。
ほどなくして惨劇の光景は消えて、元のダンジョンに戻った。
「終わり……なのか?」
しばらく身構えてみるものの、なにも起きる気配がない。
「にゃー……なんだったんだろう?」
「ボク達に対する警告、とか?」
「どんな?」
「お前達もこんな風にしてやるぞ、とか?」
「こわっ! リファの発想が怖いよ!?」
カナデが尻尾をぶわっと膨らませていた。
ニーナも同じく、三本の尻尾をぶらっと膨らませて震えていた。
「たぶん、違うな」
リファの推理をライハが否定する。
「うまく言えないですが、悪意は感じなかったのであります。そういう脅しがあったとは考えづらいです」
「ライハに賛成。やるなら、とっくに仕掛けてきたと思うわ。まあ、精神的な攻撃で、これからもこういうことが続く、っていう可能性も捨てきれないけど」
「タニアって、怖いこと考えるのですね……」
「ライハに言われたくないわよ」
俺も、どちらかというとライハの意見に賛成だ。
見せられた光景は酷いものだけど……
悪意は感じない。
どちらかというと、善意。
なぜ、あんな光景を見せたのかというと……
「真実を伝えたかったのかも、な」
「にゃん? 真実?」
「俺は、昔のことを……故郷が滅んだ時のことをよく知らない。気がつけば、全部終わっていたからな」
「だから……ああやって詳細を見せて、誰が犯人が教えてくれた?」
「そんな可能性もあると思う」
真実はわからないけど……
でも、犯人を知ることができた。
友達を。
村のみんなを。
レイチェルを。
父さんと母さんを。
……みんなを奪った敵は、最後の四天王だ。