作品タイトル不明
713話 失ったはずの温もり
「「「かんぱーいっ!!!」」」
夜。
レイチェルが言っていたように、村全体で宴会が行われた。
俺が帰ってきたお祝いということだけど……
でも、実際は違う。
適当な理由をつけて宴会をしたいだけだ。
みんな、宴会が大好きなんだよな。
「ぷはーっ! うまい、もう一杯!」
「ルナ、あまり飲みすぎてはいけませんよ」
「……にゃあ……」
「ニーナが、酔ったせいで私の決めセリフを!?」
「にゃあ」
「にゃあ」
「にゃあ」
「リファとイリスとタニアも真似した!?」
「え、えっと……わ、ワタシもした方が……?」
「そんなことより、フィーニア、肉食べよ?」
「自分も肉が欲しいであります!」
みんな、全力で宴会を楽しんでいた。
ラウドネアの復興が敵の罠ではないと判明したから、気を抜いているのだろう。
かくいう俺も、だいぶ気を抜いていた。
リラックスしつつ、酒を飲む。
「……」
村のみんなが笑っている。
楽しそうに酒を飲んでいる。
二度と見られないはずの光景。
失ったはずの笑顔。
それを、もう一度見ることができて……
「……なんだか複雑だな」
嬉しいけど寂しい。
うまく表現できないけど……
そんな気持ちだった。
「レイン」
振り返ると、父さんの姿が。
アッシュ・シュラウド。
片眼鏡が特徴的な、紳士的な人だ。
「飲んでいるかい?」
「見ての通り」
「なら、僕と一緒に飲もう。息子と一緒に飲むのは、父親の夢でもあるんだよ」
「……うん、もちろん」
父さんの姿は昔と変わっていない。
あの時のままだ。
でも、俺は変わった。
背が伸びて体が大きくなって、酒を飲める歳になった。
そのことに父さんは違和感を持たない。
普通に考えると、記憶に齟齬が生じてしまうのだけど……
そこは勝手に補正されてしまうらしい。
カグネの時と同じように、都合の良い優しい世界だ。
下手をしたら、ずっとここにいたいと願ってしまいそうだ。
「レインは、どんなお酒が好きなんだい?」
「えっと……強いていうなら、果汁で割ったさっぱりしたものかな」
「そっか。なら、これはあまり好きじゃないかな……?」
父さんは、小さな酒瓶を取り出して、テーブルの上に置いた。
「それは?」
「いつかレインと一緒に飲もうと思って、昔、買ったやつなんだよ。けっこう高かったんだ。あの時、お母さんに怒られて……」
「あなたが事前に相談することなく、勝手に買うのがいけないんですよ」
母さんもやってきた。
三人でテーブルを囲む。
「いや、ごめん……レインが初めて立ったのを見たら、なんだか、いてもたってもいられなくなって……なにかお祝いになるようなものを買っておきたくて」
「もう、仕方のない人」
「お母さんも一緒に飲もう。今日という日を、家族でお祝いしよう」
「ふふ、そうね。それは賛成ですよ」
「……」
とても優しい光景だ。
でも、とても遠い。
目の前にあるはずなのに、手が届かないほどに遠い。
本当は、もう……失われているのだから。
レイチェルは、どうしてラウドネアを復活させたんだろう?
もう一度会いたいと願ったとしても……
でも、それが最善の結果に繋がるとは限らないのに。
互いに傷つけることになってしまうかもしれないのに。
どうして……
「レイン?」
父さんが心配そうにこちらを見る。
「どうしたんだい? なにか、辛そうな顔をしているけど……」
「あ……いや、なんでもないよ。ちょっと、ぼーっとしていただけ」
「そうかい? ならいいけど……」
「体調が悪いとかなら、無理をしてはダメよ」
「わかっているよ、母さん」
奇跡だとしても。
悪夢だとしても。
こうして、もう一度、父さんと母さんに会うことができた。
なら今は、この時間を大事にしよう。
「じゃあ、みんなでお酒を飲もうか。とっておきの一品だよ」
父さんはどこか自慢そうに言って、それぞれに酒を注ぐ。
特有の香りがふわっと漂う。
「あら、良いですね」
「しっかりと管理して熟成させているからね。きっと、味も良いものになっているはずだよ」
「ふふ、楽しみです」
「じゃあ、レインの帰郷と、こうして家族が再び揃ったことに……」
「「「乾杯!」」」
グラスを合わせて、一口、酒を口に含む。
そして……
「ごほっ!?」
とんでもない味がして、思わず咳き込んでしまう。
な、なんだこの酒は……?
香りは良いけど、とんでもない味だ。
甘くて酸っぱくて、でも辛くて苦くて……そう、まるでソラの料理!
「う、うーん……ごめんよ、二人共。どうやら、管理に失敗していたみたいだ。妙な具合に発酵してしまったらしい」
「もう、しっかりしてください、お父さん。せっかくの日なのに」
「いやはや、面目ない……」
「……はは、あはははっ!」
楽しくて、面白くて、そして、やっぱり楽しくて……
この時は、余計なことを考えることはなくて、純粋に心から笑うことができた。