作品タイトル不明
714話 私がいるよ
宴は続いている。
みんな、楽しそうな笑顔を浮かべて酒を飲んでいる。
でも、それはもう失われたはずの光景だ。
二度と見ることはできないはずだった。
詳細は不明だけど……
レイチェルがみんなを……村を復活させた。
奇跡としか言いようがない。
「……はぁ」
ため息をこぼす。
父さんと母さん、レイチェル。
そして、村のみんなともう一度会うことができたのは嬉しい。
本当に嬉しい、って思う。
でも、その温もりを知ってしまったからこそ。
思い出してしまったからこそ、もう一度、失うのが怖い。
繰り返すけど、これは奇跡としか言いようがない状況だ。
長続きするとは思えない。
いずれ失われるだろう。
その時、俺は、二度も故郷を失うことになり……
「……耐えられるのかな……」
どうしても弱気な言葉が出てしまう。
怖い。
たまらなく怖い。
もう一度、父さんと母さんを失ってしまう。
もう一度、レイチェルを失ってしまう。
もう一度、村のみんなを失ってしまう。
その時のことを考えると震えが止まらなかった。
「レイン」
「……あ……」
背中に温もりが。
軽く振り返ると、カナデが俺を後ろから抱きしめていた。
「カナデ? いったい、なにを……」
「怖がらなくてもいいんだよ」
「……っ……」
その一言で、俺の心の中が、全てカナデにバレていることを悟る。
「どうして……」
「わかるよ。だって……好きな人のことだもん」
恥ずかしそうな声。
カナデの顔は見えないけど、たぶん、赤くなっていると思う。
「いつもレインのことを見ているから、だから……なにかあったらわかるんだよ?」
「……そっか」
ごまかすことはできたけど……
でも、それをしたら、カナデの想いまで否定するような気がして、素直に認めることにした。
「俺さ……怖いんだ」
「うん」
「村のみんなに会えたことは、本当に嬉しい。でも、それって、また別れを経験するっていうことだろ?」
「うん」
「あんな悲しみ……痛みを、もう一度味わうなんて……怖い。すごく怖いんだ」
「うん」
カナデは優しく俺を抱きしめてくれる。
その想いが。
その熱が。
俺の心を落ち着かせてくれる。
「喜んでいいのか、それとも悲しむべきなのか、どっちなのかわからなくて……本当にもう、俺、どうしたらいいんだろう?」
答えがわからない。
「……レインのお父さんやお母さん。村のみんな。あと……あのレイチェルっていう子は、本物なんだよね?」
「ああ、本物だ」
カグネの時のような幻とは違う。
現実に正しく沿っているわけじゃないけど……
でも、そこにある魂は本物だと感じた。
レイチェルもそう言っていた。
「なら、向き合わないと。逃げたり、目を逸らしたりしたらダメだよ」
「……俺にできるかな?」
「できるよ。だって、レインだもん。誰よりも優しくて、そして、強い人だもん」
「でも、俺は……」
「大丈夫。私達が……私がいるよ」
ぎゅうっと、抱きしめる力が増した。
「なにかあったら、私を呼んで? 私達を頼りにして?」
「……カナデ……」
「私達は、みんな、レインの味方だから。愚痴をこぼしたい時は、一晩中でも聞くよ。泣きたい時は、胸を貸してあげる」
「……」
「一人で抱え込まないで? 私達はレインのことが好きだけど、でも、それだけじゃなくて……私達、仲間だよね?」
「……あ……」
その言葉は、なによりも胸に響いた。
「だから、遠慮なんてしないで。我慢もしないで。ありのままのレインを見せてちょうだい」
そう言って、カナデは俺の正面に回る。
それから、にっこりと笑った。
その笑顔は太陽のようだ。
暗く沈んでいた俺の心を照らして、引き上げてくれる。
「……カナデ」
「うん」
「ありがとう」
「にゃー、どういたしまして」
やっぱり、カナデの笑顔は太陽のように明るく輝いていた。