作品タイトル不明
706話 ラウドネア
馬車を走らせること数日……
ようやく目的地が見えてきた。
緩やかな丘の上に、たくさんの木々が並んでいる。
迷いの森とまではいかないけど、下手をしたら迷ってしまいそうだ。
「にゃー……あの森の中にレインの故郷が?」
「ば、馬車は入らないですね……」
「いや、大丈夫だ」
ぐるっと迂回すれば……
「ふむ? このようなところに道が」
森の一部が切り開かされて、道が整備されていた。
そこまで広くはないけど、馬車は問題なく通ることができる。
ここを進んでいけばラウドネアだ。
「……」
「レイン、どうしたんですか? 険しい顔をして」
「おかしいんだ」
「おかしい?」
「ラウドネアは……ずっと前に滅んだ。だから、村へ続く道を使う人はいないし、整備もされていないはずなのに……」
道は綺麗に整備されていた。
多少、雑草は生えているものの、それだけ。
通行に問題はない。
十年以上放置していたら、普通は荒れ放題になっているのに……
ラウドネアが復興していたという話と関係があるのだろうか?
「大丈夫……だよ」
俺の不安を和らげてくれるかのように、ニーナがそっと触れてきた。
そして、にっこりと笑う。
「わたし達が……いるよ?」
「せやで。なにがあったとしても、ウチらがいるからな」
「……ありがとう」
そうだ。
俺は一人じゃない。
みんながいる、仲間がいる。
なら、なにが待ち受けていたとしても……
「やっていけるさ」
――――――――――
森の中の道を進むこと、三十分ほど。
ラウドネアに到着した。
見張り台が設置された村の入り口。
その奥に広場が見えた。
左右に住居が並んでいて……
最奥には畑が作られている。
「……」
「レイン?」
カナデが声をかけてくるけど、反応することができない。
目の前の光景に思考の全部をもっていかれてしまい、他になにも考えることができない。
「……ラウドネアだ」
滅んだはずの故郷。
あの日、なにもかも破壊されて燃えて……
残ったのは悲しみだけ。
それなのに……
なにもなかったかのように、全部、元通りになっていた。
過去の惨劇が嘘のようだ。
「こんなこと……」
「おい、もしかしてレインか……?」
ふと、こちらに気づいた村人が声をかけてきた。
その人の顔は見覚えがあって……
「……ラスターさん?」
インセクトテイマーを生業とする、お隣さんだ。
俺も、彼に色々と教わったことがある。
「やっぱり! レインじゃないか、久しぶりだな!」
「え……あ、はい。久しぶり……です」
「なんだよ、ぽかーんとして。驚きたいのは俺の方なのに、ったく」
ラスターさんはにっこりと笑う。
その笑顔は、俺の記憶の中にあるものとなにも変わらない。
でも……
こんなことはありえない。
嘘だ。
だって、ラスターさんはあの日……
「帰ってくるなら手紙の一つもよこせよな? って……こんな田舎じゃあ、手紙を出すのも一苦労か」
「あ、いえ……」
「って、こうしちゃいられない。村のみんなに知らせないとな! おーい、みんな! レインが帰ってきたぞ!」
ラスターさんはそう言って、広場に向かってしまう。
残された俺は、彼を追いかけることもできず、その背中をぽかーんと眺めることしかできない。
「レイン、大丈夫?」
「アニキ、あいつら敵でありますか!?」
「あ、いや……大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、リファ、ライハ」
ぜんぜん大丈夫じゃない。
思い切り混乱してしまい、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
いったい、なにがどうなっているんだ……?
「レイン」
「っ!?」
とても優しい声。
ひだまりのような温かい声。
それは、俺の大好きな人のもので……
自然と体が震えてしまう。
それを止めることはできなくて……
震えながら、ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは……
「……母さん……」