作品タイトル不明
703話 みんながいるから
「レインのこと、心配だよ」
カナデは猫耳をぺたんとさせつつ、じっとこちらを見る。
「これからレインの故郷に向かうけど、でも、本当は……その……もうないはずで。それなのに……うにゃー!?」
話がまとまらない様子で、カナデが混乱していた。
配慮してくれているから、うまい言葉が見つからないのだろう。
そんなカナデの頭をぽんぽんと撫でる。
「にゃ!?」
「ありがとな、カナデ」
「レイン?」
「俺なら大丈夫」
滅んだはずの故郷がいつの間にか復興していた。
その調査をすることになった。
落ち着くことはできない。
心穏やかではいられない。
でも……
「以前の俺ならダメだったと思う。でも、今はみんながいるから」
俺は一人じゃない。
みんながいる。
大事な仲間がいる。
だから大丈夫だ。
「心配してくれてありがとう」
「えへへ、どういたしまして」
カナデがにっこりと笑う。
それから、ちょっと艶のある表情に。
「でも無理はしないでね? レインってば、わりとすぐに無茶をするから」
「えっと……注意するよ」
「あと、いざっていう時は、その……わ、私に甘えてね? たくさん甘えさせてあげるから!」
その台詞を言いたかったらしい。
ただ、言ってから恥ずかしくなったみたいで、カナデは耳を赤くしていた。
そんな彼女は素直にかわいいと……
「うん?」
俺は今、カナデのことをかわいい……って?
確かに彼女はかわいい。
それに綺麗だ。
でも、なんていうか……あれ?
今まで抱いてきた感情とは、ちょっと違うような……
「レイン? どうしたの、やっぱり無理してる?」
「あ、いや……」
なにか思いつきそうだったのだけど、答えにたどり着くことなく霧散してしまう。
「大丈夫、なんでもないさ」
「そっか、ならよかった!」
太陽のようなカナデの笑顔が、俺の心を癒やしてくれるのだった。
――――――――――
ホライズンを出発して、二日が経った。
「「ぐふぅ……」」
ソラとルナの馬車酔いは相変わらず。
初日よりもひどくなっていて、もはやピクリとも動いていない。
ラウドネアまで、あと一週間くらいか?
このままだと二人が参ってしまう。
休憩を多めに取るか、なにか対策を考えないと……
とはいえ、時間の猶予はあまりないから、どうしたものか?
「ねえねえ、アニキ。ソラとルナは、馬車に弱いのでありますか?」
ふと、ライハがそんなことを尋ねてきた。
「ああ、見ての通りだ」
「「ぐへぇ……」」
「酔い止めの薬は飲まないのです?」
「飲んでもダメだったよ。他にも色々と試したんだけど、うまくいかなくて」
「そっか……よし! なら、自分に任せてください!」
「ライハに?」
「良い方法を知っています。自分も、仲間のためになにかしたいであります!」
ライハは魔族だけど、とても良い子だ。
今はまだ、みんなと少し距離があるけど……
これをきっかけにして仲良くなれるかな?
「ソラ、ルナ。これを飲んでください!」
「うぅ……なんですか、その小瓶は……?」
「なんか、妙な匂いがするのだ……」
「特製の酔い止め薬ですよ」
「「酔い止め!?」」
「自分の家に伝わる特製のものです。とても効くであります」
「「いただきます!」」
ソラとルナはひったくるような勢いで小瓶を手に取ると、一気に飲み干した。
うん?
この匂いは……
「こ、これは……!」
「お、おおおぉ……?」
二人の顔色がみるみるうちに良くなる。
死んだ魚のような目をしていたのだけど、爛々と輝くように。
「これは素晴らしいですね。さきほどまでの苦しみが嘘のように消えました」
「それだけではないぞ。どんよりと曇っていた心も晴れて、すごく爽快な気分なのだ!」
「やったです、効いたみたいでなによりです」
特製の薬が褒められて、ライハはうれしそうだった。
家が関わっているから、それを誇らしく思っているのかな?
「ところで、この薬はまだあるのですか?」
「はい、たくさんあるのです」
「良かったです。これで、馬車酔いの問題は解決しそうです」
「しかし、これほどまでに効くなんてすごいのだ。いったい、どんな材料を使っているのだ?」
「大したものじゃないです。それは、単なる酒ですね」
「「……お酒?」」
「はい。酒は薬にもなる、って言うであります。酒の力で酔いを打ち消してる、っていうわけです」
「「……」」
ソラとルナの顔が、サーッと青くなる。
だって、そうだろう。
酒ということは、つまり……
――――――――――
翌日。
「「ぐへぇ……」」
今度は二日酔いに苦しむソラとルナ。
二人の災難は、もうしばらく続きそうだった。