作品タイトル不明
701話 僕も!
みんなが落ち着いたところで話を再開した。
色々と衝撃的な事実が判明したものの……
どうして、ライハはあんなところに捕まっていたのか?
それについては謎のままだ。
俺達になら、ということで話してもらうことができたのだけど……
「……また、リースか」
その名前が出てきた。
彼女に誘拐されて、その後、研究施設に送られて実験を繰り返されていたらしい。
人間を敵視しないライハは異端かもしれないが、それでも魔族だ。
同胞を実験体にしてしまうなんて……
リースは、いったいなにを考えているんだろう?
最終的な目的は?
……嫌な予感がした。
――――――――――
サクラの両親を救出することができた。
それだけじゃなくて、ライハも助けて、仲間になってもらうことができた。
ここまで大事になるとは思っていなかったけど……
でも、最善の結果を掴み取ることができたと思う。
新しい謎が出てきたのは悩ましいところだけど……
今は、サクラの両親やライハのことを喜ぶことにしよう。
――――――――――
旅の準備は進む。
といっても、大体の準備は終わっていた。
研究所に向かっている間、みんなががんばってくれたおかげだ。
荷物はほぼほぼ揃い、馬車の手配も終わった。
あとは細かい調整のみだ。
「それじゃあ……アルさん、シグレさん、お願いします」
「うむ、妾達に任せるがよい」
「安心しておくれ」
サクラの両親はアルさんとシグレさんに任せることにした。
二人は精霊族の里に移動して、そこでサクラの両親の本格的な治療を行うらしい。
二人に任せておけば安心だ。
でも……
「うぅ……」
サクラはとても寂しそうだった。
仕方ない。
ようやく両親と再会できたのに、言葉を交わすことなく、また別れないといけないのだから。
尻尾をしょんぼりとさせるサクラを見ていたら、笑顔になってほしいという気持ちが湧き上がる。
「サクラ、大丈夫だ」
「レイン……?」
「サクラの両親は、きっとまた笑ってくれるよ。サクラのことを抱きしめて、よしよしってしてくれる」
「本当に……?」
「ああ、本当だ。絶対だ」
「……うん!」
少しだけどサクラの元気が戻った。
完全回復とはいかないけど……うん。
今はこれでよしとしよう。
――――――――――
そうやって、色々な準備が終わり……
出発を明日に控えた夜。
「僕もしたい!」
突然、サクラがそんなことを言い出した。
「にゃ? したいって……なんのこと?」
「くくく、レインとエロいことか?」
「えろいこと?」
サクラが不思議そうに小首を傾げた。
お願いだから、その場のノリで純真なサクラに変なことを吹き込まないでほしい。
「僕、レインと契約! する!」
「あ、そういうことね」
「そういや、色々あって、サクラはレインの旦那と契約しとらんかったなー」
「僕も! 僕もする!」
ぴょんぴょんと跳ねつつ、全身でアピールするサクラ。
尻尾ははち切れんばかりに振られていた。
「サクラはいいのか?」
「うん!」
「えっと……じゃあ、契約するか?」
「うん!!!」
目をキラキラさせて、何度も頷かれてしまった。
それくらい、俺のことを慕ってくれていたみたいだ。
恥ずかしいやらうれしいやら……うん。
サクラが仲間でよかった、って心底思う。
「じゃあ、いくぞ」
「ばっちこい!」
その口調、ルナの影響だろうか……?
いや。
今は余計なことは気にしないでおこう。
「我が名は、レイン・シュラウド。新たな契約を結び、ここに縁を作る。誓いを胸に、希望を心に、力をこの手に。答えよ。汝の名前は?」
「僕!」
サクラはとても元気よく応えた。
「え?」
「え?」
俺とサクラの間の抜けた声が響く。
当たり前だけど、契約は成立しなくて……
何事もなく、そのまま魔法陣は消えてしまう。
「なんで!? 僕、契約できない!?」
「いや……あの時、一人称じゃなくて名前を応えてくれないと……」
「でも、僕は僕! 僕だから僕なんだよ?」
「えっと……」
しまった。
というか困った。
サクラの一人称は『僕』。
それは本人の中で名前と同等の扱いになっていて……
そのせいで、契約の際に『僕』と応えてしまったのだろう。
俺の力が足りないわけじゃない。
サクラに契約の意思がないわけじゃない。
ただ、咄嗟に自分の名前を口にすることができなくて……
そのせいで契約できないという、前代未聞の事態に陥っていた。
「僕、どうすればいいの……?」
「えっと……まずは、名前のことも含めて色々と勉強しようか」
「契約できない……? レイン、僕、嫌い……?」
「そんなことないさ、大好きだ」
「僕もレイン、好き!」
落ち込みから一転、笑顔になるサクラ。
そのままの勢いで抱きついてきて、
「「「あーーーっ!?」」」
カナデ達の嫉妬の悲鳴が響いたとかなんとか。