作品タイトル不明
692話 望まない戦闘
体は倍近く大きくなった。
手足の爪は湾曲しつつ、刃のように鋭い。
額に生える角は槍のようだ。
そして……
全身が黒に染まり、血のような紅のオーラがあふれだしていた。
「あ……う」
サクラの全身から発せられる怒りと憎しみと……そして、殺気。
それらをまともに浴びてしまい、フィーニアはぺたんと座り込んでしまう。
無理もない。
俺も、気を抜けば意識を持っていかれそうだ。
それほどまでにサクラの怒りは大きい。
絶望は深い。
「イリス、フィーニアを頼む! ティナは俺の援護を!」
「で、でも相手はサクラやで? 戦うなんて……」
「なんとか無力化してみせる! カナデが元に戻ったんだから、サクラだって元に戻せるはずだ」
「せ、せやな……うし! がんばるで!」
「グルァッ!!!」
瞬間、サクラが床を蹴る。
「はや……!?」
一瞬で目の前に迫る。
闇落ちしたことで、身体能力が倍以上に強化されているみたいだ。
ほぼほぼ反射的にクサナギを引いて、アイギスを展開させた。
直後、サクラの前足が薙ぎ払われる。
ガッ!!!
間一髪、サクラの攻撃を防ぐことに成功した。
しかし衝撃を逃すことはできず、吹き飛ばされてしまう。
「レインさま!」
「大丈夫……だ!」
吹き飛ばされつつ、宙でくるっと回転。
衝撃を最小限に抑えつつ着地した。
それと同時に魔法を発動。
「ファイアーボール・マルチショット!」
サクラの周囲に複数の火球を着弾させた。
爆炎と衝撃で感覚を奪おうとしたのだけど……
「ガアアアアアァッ!!!」
「うそだろ!?」
それがどうした? というような感じで、まるで気にせず、突撃してきた。
だから……速い!
「こ、のぉっ!!!」
サクラの動きに合わせてクサナギの刃を叩きつけた。
もちろん、真剣を向けるなんてことはできない。
クサナギを横に寝かせて、刃の腹で殴る。
タイミングはバッチリ。
この軌道なら、確実に攻撃を当てることが……
「なっ!?」
サクラは直前で急ブレーキ。
直上に跳躍して……
さらに宙を蹴り、俺の背後に回り込む。
闘気を使い、立体的な機動を可能にしたのか!?
くそ、油断した。
シグレさんと同じ呀狼族だから、サクラが同じ真似をしてもおかしくない。
今までそういうことをしていなかったから、という先入観が邪魔をしてしまった。
「来たれ、封神の監獄」
光で編み込まれた鎖が複数出現して、暴走するサクラを縛りつけた。
サクラは足に力を込めて鎖をちぎろうとするが、それは叶わない。
むしろ、鎖はさらに強固に複雑にサクラを締め上げる。
「くぅ……レインさま、これでも長くは保ちません!」
「なら!」
重力操作でイリスの補助に回る。
ありったけの力で重力を増やしてやるが、それでもサクラは、なおも暴れ回ろうとしていた。
「わ、ワタシもっ!」
フィーニアは背中に炎の翼を生やした。
すぐにそれは彼女よりも大きくなり、なおも成長を続ける。
片翼、十メートルほどになったところで、サクラを左右から包み込む。
炎の翼の包容。
結界のような役割を果たして、中にいるものの活動を強制的に停止させる……はずだった。
「グルルルゥ……ガァッ!!!」
「くっ、この力は……!?」
三人がかりでも止めることができない。
サクラは強引に拘束を破ろうとしていた。
なんて力だ。
そして、その力の源は……悲しみ。
変わり果てた両親の姿に対する、怒り。
「こんなこと、早く止めないといけないのに!」
「みんな、そのまま頼むで!」
「ティナ!?」