作品タイトル不明
671話 妄執に囚われた者の果て
「くっ……がっ、あぁあああ……」
地面に落ちるアルトリウス。
しかし、まだ息はあるらしく、手足を動かして必死に立ち上がろうとしていた。
でも、それは意味をなさない。
限界以上のダメージを受けたことで、まともに体が動かないのだろう。
立ち上がろうとして、失敗して倒れて……
それを繰り返すだけ。
壊れた人形のようだ。
「終わりだ」
クサナギをファーストフォームに戻して、アルトリウスに刃を突きつけた。
「ぐっ……き、貴様……なにをしているか、わかっているのか?」
「なんだって?」
「私は、民を導く存在、なのだ……この私がいなくなれば、愚かな民衆は暴走して……この世界なんて……」
「お前は……」
まだそんなことを言っているのか?
ミナの最期を見て、まだ愚かと言えるのか?
この男は人の感情をまるで理解していない。
心というものをまるで信じていない。
怒りじゃなくて、アルトリウスが哀れに思えてきた。
「私は、こんなところでぇ……あの女の思い通りに、なるなんてぇ……」
「あの女?」
「……その話、具体的に聞かせてもらおうか」
気がつけば、ラインハルトがすぐ近くに。
俺と同じように短剣を構えつつ、アルトリウスに言葉を投げる。
「興味のある話だ。ぜひ、聞かせてくれ」
「ぐっ……」
「まあ、予想はつくがな」
「……は、はは……はははははっ!」
突然、アルトリウスは笑い出した。
おかしくなってしまったのではないかと、そう思うほどに大きな笑い声を響かせる。
「この国はっ、この世界はもう終わりだっ! この私がいなくなってしまうのだ!!! 民を導く者がいない、どこにもいない! 終わりだ、終わりなのだ、はははははっ!!! いいぞ、こんな世界なんて終わってしまえっ、終わってしまえばいいっ!!!」
「お前は……」
アルトリウスには、アルトリウスの正義があるのだろう。
それを絶対的に信じているのだろう。
どうして、そこまで自分を信じることができるのか?
どうして、迷いを一切抱くことがないのか?
アルトリウスの執念と呼べるような自己肯定に、おぞましさを感じてしまう。
「はははははっ、ははははははははははぁっ!!!」
アルトリウスは笑い声を響かせて……
やがて、その体は魔族と同じように塵となり、世界から消滅した。
それと同時に、街を覆う不気味な光が晴れていく。
魔物や魔族の気配も遠くなる。
術者を倒したことで、零式監獄が解除されたのだろう。
教会の権威を復活させるために、街を一つ、犠牲にしようとして……
己が正しいと最後まで信じて、蛮行を繰り返して……
その元凶のアルトリウスは討った。
ひとまず、これで事件は解決した。
したのだけど……
「……」
振り返ると、どこか安らかな顔をして、目を閉じたミナの姿が。
彼女はもう、二度と目を開けることはない。
そのことが……素直に悲しい。
――――――――――
アルトリウスを倒したものの、これでハッピーエンドというわけじゃない。
むしろ、ここからが大変だ。
たくさんの怪我人が出た。
建物の被害も目を覆いたくなるほどだ。
ホライズンにいる冒険者の全てが騎士団に協力をして、復興作業にとりかかる。
もちろん、俺達も協力した。
カナデ達みんなは、それぞれの能力を活かして、怪我人を治療したり、壊れた建物からの救助を行ったりしている。
そんな中……
俺は、街を一望できる丘の上でラインハルトと対峙していた。
「話とはなんだ?」
ラインハルトは一人だった。
オフィーリアは先行させて、仲間のところへ合流させたらしい。
「少し意外だな」
「なにがだ?」
「あんたのことだから、俺のことなんて無視して、この街を去ると思っていた。まともに言葉を交わしたことがないけど、そんな印象だ」
「そうしてもいいが……時と場合によっては、今後、お前と協力関係を築くかもしれないからな」
「それは、どういう……?」
「しゃべりすぎた、忘れろ」
有無を言わせない口調に、それ以上の追求はできなくなってしまう。
仕方ない。
今の話は気になるが……
気が変わって立ち去られたりしないうちに、本題を済ませてしまおう。
「あんたは、ミナになにか聞きたいことがあったらしいな? それはなんだ」
「素直に答えるメリットは?」
「ない」
「それで答えると思うか?」
「もしも、将来的に協力関係を結ぶかもしれないなら、今のうちに恩を売っておいてもいいんじゃないか?」
「……ちっ」
失敗した、という感じでラインハルトが舌打ちをした。
意外とそそっかしいのかもしれない。
「まあいいだろう。知られて困るような話ではないからな」
「じゃあ……」
「俺の目的は、ミナ・ルサージュから、元勇者の居場所を聞き出すことだ」
「アリオスの……? そんなことを聞いて、どうするつもりなんだ?」
「殺す」
ラインハルトは、淡々と言い放った。