作品タイトル不明
665話 終わらせない
「……」
エリスが死んだ。
その生命が消えた。
そのことを自分の手で感じ取ったミナは、呆然となる。
「どうして……こんな……」
間接的にではあるが、ミナはエリスの家族を奪った。
故郷を奪った。
それなのにエリスは、己を犠牲にしてまでミナを助けた。
それだけではなくて、これから先のことを案じて、励まして……逝った。
どうして、そこまでできるのか?
聖騎士だからなのか? それとも、彼女の心のあり方が関係しているのか?
いくら考えてもわからない。
なにもわからない。
……それでも、一つだけわかることがあった。
「このまま……終わらせることは、絶対にできませんっ!!!」
エリスは死んだ。
それは絶対的な事実。
ならば、どう終わらせないというのか?
「……神よ。何度も過ちを犯して、今になってそれをようやく自覚して、しかし、償う方法を見つけられない愚かな私ですが……今は、今だけはその力をお貸しください」
ミナはエリスの体をそっと地面に横にした。
その前に膝をついて、手を合わせる。
祈りを捧げる姿に。
ただ、神の慈悲にすがるわけではない。
とある魔法を発動させるために必要なことなのだ。
「今、あなたに祈りを捧げましょう。想いを届けましょう。慈悲の光をここに。慈愛の導きをここに。世界は優しさに満ちている。その欠片をいただき、この者に再び立ち上がる力を」
ミナの体から黄金色の光があふれだした。
それは、ホタルの光のよう。
小さな光の粒がいくつも舞い上がり、ふわふわと漂う。
それらは、いくらかの間、ミナの周囲を漂い……
ややあって、エリスの体に吸い込まれていった。
一つ、二つ、三つ……
数え切れないほどの光の粒がエリスの体の中へ。
その光を受け止めて、エリスの体が輝き始めた。
「なっ……!? ミナ、貴様、なにをしている!? バカな真似はよせ!!!」
ミナの行動を見たアルトリウスは、それまでかぶっていた余裕の仮面を脱ぎ捨てて、慌てた。
四体全ての天使を集結させて、ミナに突撃させようとするが……
「させるか!」
レインが間に立ち、ミナに対する攻撃を防いでみせる。
「ミナっ!」
レインは戦闘を繰り広げつつ、ミナを見た。
強く、まっすぐな視線で……
そして、ミナに対する信頼があった。
「なにをするか知らないが、ここは俺達がなんとかする!」
「……レインさん……」
「だから……がんばれっ!!!」
「っ……はい!!!」
レインが応援してくれている。
かつて、理不尽にパーティーを追放して……
その後も、ひどいことを繰り返してきた。
それなのに、今は応援してくれている。
信頼を向けてくれている。
ならば、それに応えないと。
また一つ、覚悟の段階が上がる。
ミナはさらに深く集中して、魔力を解放していく。
ありったけの魔力を。
欠片も残すことなく、全てを放出する。
「神よ、あなたの奇跡を今ここに……エーテル・リザレクション!!!」
そして……
ミナが行使できる最大の魔法、死者蘇生魔法が唱えられた。
一際強い光が戦場を飲み込む。
世界が白に包まれて……
そして、それらはエリスの中に全て吸い込まれていった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
魔法を唱え終えたミナは、ひどく衰弱していた。
当たり前だ。
全魔力を振り絞り。
それに加えて、体力も気力も精神力も全て捧げた。
意識を保っているのが奇跡のようなものだ。
ただ、ここで気絶するわけにはいかない。
成功したか失敗したか、結果を見届けないと。
「……ぅ……」
ぴくりと、エリスの指先が動いた。
死んでいるはずのエリスの目がゆっくりと開いていく。