軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

664話 復讐よりも価値のあるもの

「なにもできない? 価値がない? そんな思い込みで命を投げ捨てようとするなんて、なにを考えているのですか! いつまで思考を放棄しているつもりですか!!!」

「わ、私は、最善を考えて……」

「考えてなんていません! 今も、この瞬間も、あなたは逃げている。ずっと逃げている!」

エリスの言う通り、ミナは逃げていた。

非情な現実に心が打ちのめされて。

それを乗り越える術を持たず、知らず。

だから、楽になるために、それらしい理由で自分を納得させていた。

犠牲になることで……と、自分を騙して楽になろうとしていた。

でも、ミナの全てを責めることはできない。

彼女は、そういう風に育てられてきたのだから。

物心ついてから、今に至るまで。

そうすることが正しいと育てられてきたのだ。

それを、一日で変えることは難しい。

難しいのだけど……

「逃げないでくださいっ!!!」

エリスは腹立たしかった。

家族の仇に等しいミナを許すことはできない。

殺したいと思うし、死ぬのなら勝手に死んでくれと思う。

それでも……

ミナが意味もなく死ぬのなら、彼女が今まで関わってきたもの全てが無意味になってしまう。

それだけは避けたい。

だから、せめて前を向いて。

自分の考えを持ってほしかった。

「ミナ・ルサージュ! 前を向きなさい!!!」

「私……は……」

エリスの叱責に反応するかのように、虚ろだったミナの瞳に色が戻る。

なにも考えないできた。

色々なことから逃げてきた。

でも、それは終わりにしないといけない。

エリスの言う通りだ。

これ以上、逃げ続けるわけにはいかない。

辛いとしても。

苦しいとしても。

立ち向かい、歩いていかないといけないのだ。

それをせず、自分の殻に引きこもり、なにも見ようとしない……

そんなことになれば、それはもはや生きているとは言えない。

どうしようもなく愚かな存在に成り下がってしまう。

それだけは……

「元とは、いえ……勇者パーティーだったのだから、それらしいところを見せてください。私が憧れていたような、かっこいい、ところ……を……」

「エリスさん?」

「前を、向いて……歩いて……」

エリスは最後まで言葉を続けることができず、そのまま倒れた。

「エリスさん!?」

ミナは慌ててエリスを抱き起こした。

そこで、ぬるりとした感触に気づく。

そっと自分の手を見ると、赤く濡れていた。

「これは……」

ミナは慌ててエリスのマントを外す。

すると、その下に隠れていた無残な光景が現れる。

背中に大きな傷があった。

右肩から左脇腹にかけて、斜めに走る裂傷。

鎧をえぐり取るようにして、肉も一緒に削られている。

「そ、そんな……これは……」

エリスはミナをかばい、大怪我を負った。

そのことを理解したミナは、泣きそうなほど顔を大きく歪める。

「どうして……どうして!? 私なんかのために、どうしてこんなことまで……!!!」

「わかり、ません……あなたが仇、だと、しても……それでも、助けたいと、思って……」

「今、治癒します!」

動揺している場合じゃない。

泣いているヒマなんてない。

ミナはすぐに治癒魔法を唱えた。

上級に分類される『セイクリッドブレス』だ。

骨が折れていたとしても、時間をかけることで元通りにすることができる。

肉がえぐれ、大量の血が流れていたとしても、再び立ち上がることができるようになる。

それだけの威力を秘めた治癒魔法。

ミナは惜しげもなく、魔力を全て注ぎ込む勢いで唱えるのだけど……

「どうして……なんで!?」

エリスの背中の傷は癒やされつつあった。

時間を逆再生するかのように、裂傷は消えていく。

出血が止まり、折れていたであろう骨もくっついていく。

それでも。

エリスの呼吸はどんどん弱いものになっていく。

顔から血の色が消えていき、青白くなってしまう。

生気というものが失われていった。

「ダメ、ダメですっ……! こんなことは、私なんかのせいで……!!!」

ミナは今まで以上に魔力を込めた。

全力で治癒魔法を唱える。

唱え続ける。

しかし、エリスの体に力が戻ることはない。

逆に、どんどん冷たくなっていく。

「あ、あぁ……」

最初の一撃で、すでに致命傷だったのだ。

命を奪い取られ、魂まで傷つけられていた。

かろうじて生きていただけで、虫の息というだけで……

最初の時点で詰んでいた。

どうすることもできない。

「エリスさんっ! まって、まってください!!! 私は、まだあなたに謝らないと……償いをしないと……!!!」

「……いい、です」

エリスは……笑った。

家族の仇のはずなのに。

村の仇のはずなのに。

そんなミナを相手をかばい、笑みを向ける。

「私は、これで……復讐、よりも……やはり、誰かを助けることが、そう、できたの……なら……悔いは……」

「お願いっ、死なないで!!! 私なんかのせいで、こんなこと……!!!」

「……がん、ばって……」

エリスは、最後までミナの今後を想い……

そして、その生命が消えた。