作品タイトル不明
660話 とある男の信仰
アルトリウスは信心深い両親を持つ。
食事の際は神に祈りを捧げて……
一日の始まりと終わりにも祈りを捧げる。
週一回、両親に連れられて教会を訪れて、たくさんの人々と共に神に祈る。
その後は、教会が行うボランティアに参加して……
そんな生活をしていたからか、アルトリウスもまた、信心深い者に育った。
成長したアルトリウスが教会の神官になるのは、当たり前の流れだっただろう。
アルトリウスは信心深いだけではなくて、知恵を持っていた。
祈りを捧げるだけではなくて、幼い頃から勉学に励み、研鑽を積み重ねてきた。
故に、地位を重ねていくのは当然のことだったかもしれない。
……教会で働くようになって、数十年。
気がつけばトップに上り詰めて、指導される側から指導する側に回っていた。
その頃になって、アルトリウスはとある疑問を抱くようになっていた。
それは……
「神は実在するのだろうか?」
信じる、信じないは別にしても、ほぼ全ての人間が『神』という概念を知っている。
おとぎ話に神が出てくることは少なくないし、吟遊詩人が神をテーマにした歌を語ることも少なくない。
なるほど。
そう考えるのならば、確かに神は存在するのだろう。
存在していないのなら、ここまで深く広く浸透しているわけがないし、そもそも、『神』という概念が生まれていないだろう。
だがしかし。
「なぜ、神は姿を見せてくださらない……?」
毎日祈りを捧げている。
教会という組織を運営して、日々、その勢力を拡大している。
それなのに、未だに一度も神の姿を見たどころか、声を聞いたこともない。
本当に神はいるのか?
自分達を見守ってくれているのか?
そんな疑問が日に日に膨れ上がり……
そして、ある日、彼の信仰にトドメを刺す事件が起きる。
アルトリウスの妻が事故に遭い、他界したのだ。
アルトリウスの妻もまた信仰深い信者で、毎日の祈りを欠かしていない。
いつも笑顔で、「神様が見守ってくださっているわ」と口にしていた。
それなのに理不尽な事故で命を奪われた。
神は……なにもしてくれなかった。
その瞬間、アルトリウスの中で神に対する信仰は絶えた。
神なんて……いない。
なればどうするか?
自分が神となり、人々を導いていく。
それこそが自分の使命なのだ……そう思うようになった。
そして、アルトリウスは教会の権力の拡大を図り……
同時に、己の力を高めることも考えた。
どれだけ祈ろうと、所詮、力がなければ大事なものは守れないのだから。
アルトリウスは力を求め、日々、研鑽を積んだ。
本を読み漁り、知識も蓄えた。
しかし、足りない。
ぜんぜん足りない。
教会のトップに上り詰めたアルトリウスではあるが、基本的に彼は普通の人間だ。
勇者のような限界突破という能力はなく、いずれ頭打ちとなる。
最強種のような並外れた力も持たない。
限界を感じたアルトリウスは……
禁忌に手を染めた。
他者の魂を食らい、力を得る。
最初は動物に手を出した。
しかし、得られる力はわずかなもの。
次に……人間を犠牲にした。
ただ、それでも思っていた以上の力を得ることはできない。
ならば、どうするか?
答えは簡単だ。
人並み外れた存在の魂を喰らえばいい。
最強種。
魔族。
それらを喰らい、アルトリウスは力を蓄えていった。
全ては、己の理想を叶えるため。
もう奪われないため。
……自分が神となるために。