作品タイトル不明
657話 真実と罪と
思わぬ人物の乱入に、オフィーリア以外の全員が構えた。
ただ、それを制したのは、他でもないラインハルトだ。
彼は交戦の意思はないというかのように、両手を挙げてみせる。
「早まるな。今回は、お前達と戦うつもりはない」
「ミツキとアリエイルをけしかけておいて?」
「あのバカ共については、素直に謝罪しよう。あいつらが先走っただけで、お前達と戦えなんていう命令は一言も下していない」
嘘は言っていないように見えた。
言葉の節々から、ミツキとアリエイルに対する呆れのようなものが感じられて……
意外と本当のことを言っているのかもしれない。
「俺の目的は、ミナ・ルサージュから話を聞くこと。それと、追加で零式監獄を解除することだ。こんなものが展開されていたら、今後、動きにくくなりそうだからな」
「ミナから……? それと、動きにくくなりそう、というのは?」
「それは言えない。とにかく、敵対する意思はない。だからこそ、お前の仲間もここに来ることを見逃してくれた」
「仲間……?」
「天族と精霊族の双子だ」
「イリスと、ソラとルナか……」
イリスとソラは、しっかりと人を見る目がある。
ルナは……まあ、あんなでも、わりとしっかりとしている。
そんな三人がラインハルトを阻まなかったというのなら、敵意はないのだろう。
根拠はないけど、でも、俺は仲間を信じる。
「それと情報を提供しよう。零式監獄の解除方法だ」
「知っているのか!?」
「そこの女を犠牲にする以外にも、いくつかある。魔法に長けた者が結界を解析、解除すればいい。ただ、これは時間がかかる。ならば、仕掛けたものを殺せばいい。これが一番単純な方法だろう」
「もしかして……」
アルトリウスがいた場所を見る。
未だ粉塵が舞い上がり、彼がどうなったのかわからない。
「そうだ。この零式監獄は、アルトリウスによって仕掛けられたものだ」
「なっ!?」
反射的にアルトリウスを見ると、彼は無表情だった。
感情のない顔でラインハルトを見て……
ややあって、小さな吐息をこぼす。
「ふぅ……どこで突き止めたのか知らないが、余計なことを。好奇心は猫をも殺す、という言葉を知らないのか?」
そう言うアルトリウスの顔に感情が乗っていく。
黒い、黒い、黒い感情。
悪意以外の色はなにもない。
自己保身と欲望を満たすためだけにある、直視するのもおぞましい感情だ。
「なぜですか!?」
成り行きを見守っていたエリスが、たまらずに叫んだ。
「私達の力は人々を守り、癒やすために使うもの! それなのに、なぜ真逆の行いを……!!!」
「教会のためだ」
「教会の……?」
「そこの愚か者のせいで、我が教会の権威は失墜した」
愚か者、という部分に反応して、ミナがビクリと震えた。
それに構わず、アルトリウスは話を続ける。
「このままでは、教会は解体されるか、その運営を国に委ねられることになるだろう。そのようなことは許さん。断じて許さん」
「しかし、それはもう……」
「問題ない。今回の事件がミナの犠牲によって解決されたとなれば、教会の権威は回復するだろう。いや。尊い自己犠牲ということで、以前よりも多くの信仰を得られるかもしれない。どうだ? 素晴らしいアイディアだろう?」
無茶苦茶だ。
自分で事件を起こしておいて、自分で収めてみせる。
そして、それを手柄にして誇る。
こんなヤツが教会のトップだというのか?
だとしたら、そんなアルトリウスの影響下にあったミナは……
「ミナがいたのは、実にいいタイミングだった。これは我が教会のために励めという、神のお告げかもしれないな」
「あなたという……人はっ!!!」
エリスは怒りの形相で、剣を握る手に力を込める。
あまりに力を入れているせいか、剣がわずかに揺れていた。
「さて……最後の仕上げだ。エリスよ。ミナを殺して、その魂を捧げるのだ。そして、結界を解除して教会の権威を回復させろ」
「ふざけないでくださいっ!!!」
エリスが激怒した。
剣の切っ先をアルトリウスへ向ける。
「誰がそのようなふざけた話に乗ると!? 私達が真にすべきことは、この身を粉にして人々に尽くすことです! それなのに、あなたは自分のことしか考えていない。いかに豊かになることしか考えていない」
「……この私にそのような口を?」
「あなたは教会のトップでもなんでもありません! 権力に飢えた、ただの亡者です!」
「この私を愚弄するか!」
アルトリウスも怒りの表情を浮かべるが……
それ以上に、みんなの方が怒っていた。
カナデ、タニア、シフォン……みんな、エリスと同じ怒りを抱いていた。
「にゃー……あいつ嫌い。結局、自分のために街の人達にひどいことしてるんだよね? これは、本当に許せないかも」
「欲にまみれた典型的なタイプの人間ね。その腐った性根、あたしのブレスで焼き払ってあげる」
「勇者として……ううん。一人の人間として、あなたの行いは見過ごすことはできない。ここで討ちます」
三人が構えて……
続けて、ラインハルトとオフィーリアも戦闘態勢に移行する。
「俺の目的を果たすためでもあるが……それを抜きにしても、あいつは気に入らないな。手を貸そう」
「マスターに付き従うのが私の役目。お手伝いいたします」
みんなの心が一つになっていく。
そんな中、ミナは……
「わ、私は……」
迷子になった子供のような顔をして……
震える手で杖を抱きしめていて……
どうしていいかわからない様子で、俺達とアルトリウスの間で視線を揺らしていた。
そんなミナを見て、アルトリウスが笑いながら言う。
「ミナ。身寄りのないお前をここまで育ててきたのは誰だ? 教会のおかげ……私のおかげだろう? その恩を仇で返す気か?」
「そ、それは……」
「お前に、自分で考える意思なんて必要ない。今までそうしてきたように、私の言う通りにすればいい。自分で考えるな、ただの器であれ」
「あ……ぅ……」
「どうせ、お前のような女は他に使い道なんてないのだ。力を持っていなければ、その身を使い、貴族連中を喜ばせるくらいしかできない。その程度なのだよ」
「あ……あぁ……」
「だから……教会のために、私のために死ね」