軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

656話 命を拾うために命を捨てろ

「それは……どういう、意味なのですか……?」

ミナは動揺しつつも、質問を返した。

その様子に満足した様子を見せつつ、アルトリウスが説明をする。

「現状を打開するには大きな力が必要だ。それは個人で補えるようなものではなくて、そして、最強種でもどうにかすることはできない。それほどに大きな力が必要なのだ」

「……大きな力……」

「そのために、君を犠牲にして、邪悪を退ける特別な魔法を起動させる」

「私の……命を?」

「そうだ。君が犠牲となれば、大きな力を得ることができる。魔法を起動することができて、この街を、多くの人を救うことができる」

「……私が……」

「さあ、ミナ・ルサージュよ。人々のため教会のため、その生命を捧げよ」

ミナを歓迎するかのように、アルトリウスは両手を広げて、笑みを浮かべてみせた。

「私が……街の人々を……」

ミナはぶつぶつとつぶやきながら、おぼつかない足取りでアルトリウスの元へ……

「ミナ」

「っ!?」

でも、それは許さない。

俺はミナの肩を掴み、その足を止めさせた。

「レインさん、なにを……」

「そうやって、相手の言葉を鵜呑みにして、ちゃんと考えないところ……ミナの悪いところだ」

「うっ……」

最近になって自覚が出てきたらしく、ミナは苦い顔に。

「君は誰だ? この事態を収拾するため、ミナには、早く尊い犠牲になってもらわなければいけないのだが……」

「俺のことはどうでもいい。それよりも、どうしてそんなに簡単にミナを犠牲にしようとする? 他の選択肢はないのか?」

アルトリウスが言っていることは、おそらく真実なのだろう。

ミナが身を捧げれば零式監獄は消える。

ただ、落ち着いて考えると疑問点がいっぱいだ。

なぜ、アルトリウスは零式監獄の解除の方法を知っているのか?

なぜ、タイミング良くこの場に現れたのか?

考えれば、いくらでも疑問が湧いてくる。

そんなヤツの言う通りにしても、事態を解決できるとは限らないし……

なによりも、ミナを犠牲にするようなやり方には反対だ。

「……なるほど。その容姿と最強種達。君が噂に聞く、レイン・シュラウドか。それと、勇者様……なるほど、なるほど」

「答えろ。なぜ、零式監獄について詳しい?」

「たまたま知っていた、それだけだ」

子供みたいな言い訳だ。

とはいえ、それを嘘と断定する証拠を、こちらは持っていない。

「私が言っていることは、神に誓って真実だ。この零式監獄を解除するためには、大きな力が必要となる。それは、人でも最強種でも絞り出すことは難しい。しかし、強い力を持つミナがその身を捧げれば、解除は可能だろう」

「本当……なのですか?」

「ああ」

「……」

「さあ、ミナよ。人々のために、その身を捧げるのだ」

「私、は……」

ミナは迷いを見せていた。

でも、そんな自己犠牲はいらない。

それは献身ではなくて、逃げ……だ。

「ミナ、勘違いしないでくれ」

「レインさん……?」

「ヤツの言う通り、ミナが犠牲になって事態を収拾できたとしても……それで贖罪になるわけじゃない」

「っ!? 気づいて……いたのですか?」

「なんとなく、だけどな」

ミナは、少しだけど変わった。

自分でものを考えるようになった。

だから……

今まで犯してきた罪も自覚するようになった。

だからこそ、その罪の重さに耐えられなくなったのだろう。

自分が犠牲になればいいというのなら、そうすることで、贖罪としようとしたのだろう。

でも、それは贖罪にはならない。

ただ逃げているだけだ。

本当の贖罪は、罪とまっすぐに向き合い、己自身も生かすことだと思うから。

「私は……」

「俺達がなんとかしてみせる。だから、簡単に命を捨てようとするな。逃げないでくれ、っていう意味もあるけど……やっぱり、元とはいえ、パーティーメンバーが死ぬところなんて見たくない」

「こんな私を、そのように……ありがとう、ございます」

ミナはうつむいて……

少し、雫が落ちるのが見えた。

軽く後ろを見ると、みんなは、それでいいよ、と微笑んでいた。

「……愚かな」

アルトリウスが淡々と言う。

その表情は、不快なものを見るかのように大きく歪んでいた。

「ミナ・ルサージュ。お前に残された道は、ここで死に、教会のために尽くすことだというのに。今まで育てた恩を忘れたか?」

「教会の……ため?」

「そうだ。貴様のせいで教会の権威は失墜した。なればこそ、貴様がその身を投げて、教会の権威を回復させるのが道理というものだろう。そのために……まったく、本当に使えない」

「お前は……!!!」

人のことを、使えるか使えないかで判断するのか。

アルトリウス・グレイゴム。

この男の本性が見えてきた。

今回の事件……

ミナは、モニカやリースの部下によってそそのかされて、この地にやってきた。

目的は、俺かシフォン。

リーンと同じように魔族化させて、ぶつけようと思っていたのだろう。

でも、思わぬ乱入者によって、その計画は破綻した。

アルトリウスだ。

彼はモニカやリース達の部下が引き起こした事件を逆に利用した。

そして、ミナを犠牲にすることで、教会の失墜した権威を回復させようとした。

そのために……

「己の役割を忘れた道具は、誰かが本来の使い方を思い出させてやらねばいかん。その役目、儂が引き受けよう」

「あ、アルトリウス様……」

「自ら死ねないというのなら、儂が手伝ってやる。さあ……人々のため教会のため、その命を捧げてもらうぞ」

「……とんだ茶番だな」

不意に、第三者の声が乱入してきた。

直後、

ゴォッ!!!

アルトリウスが立っていた場所が炎に包まれた。

今のは……上級魔法のエクスプロージョンか?

「久しぶりだな、というほど時間は経っていないか」

「ラインハルト!」

振り返ると、ラインハルトの姿があった。