作品タイトル不明
655話 起点
魔物と魔族を倒して……
逃げ遅れた人を助けて……
それと同時に、零式監獄の起点となるものを探す。
やらなければならないことが多すぎて、目が回るような忙しさだ。
ただ、オフィーリアが協力してくれたことで、劇的に状況が好転する。
なにしろ、彼女は天族だ。
その圧倒的な能力で敵を駆逐してくれるため、こちらにある程度の余裕が生まれる。
それを利用して零式監獄の起点を探して……
「にゃ!?」
隣を走るカナデの尻尾が、ピーンと立つ。
「レイン、レイン! なんか変な、いやーな気配を感じたよ! これかも」
「場所は?」
「あっち!」
カナデが北を指差した。
街の北にあるものは……
「教会……か?」
特殊な建物といえば他に思い浮かばない。
ただ、教会を起点として零式監獄が発動しているのなら、いったいどういうことに……?
「……今は疑問は後回しだな」
少しでも早く事態を収拾するため、俺達は全力で駆けた。
――――――――――
教会は神様へ祈りを捧げるための場だ。
ただ、それだけではなくて、他にも色々な役割を担っている。
子供達に勉強を教える。
ボランティア活動。
治癒院では対処できない呪いなどの対応。
日常生活を送る上で欠かせない施設となっている。
ただ……
今は、その教会は禍々しい光に包まれていた。
「これは……」
教会に到着するのだけど、思ってもいない光景に、ついつい足を止めてしまう。
街を覆う光をさらに濃くしたような……
血のような『赤』に教会が包まれていた。
教会の頂点から赤い光が空に向かって伸びていた。
それがある一定の地点で拡散して、街を覆ってしまっている。
間違いない。
ここが零式監獄の起点だ。
「でも、どうして教会が……?」
「……まさか」
なにか心当たりがある様子で、エリスが小さくつぶやいた。
その意味を聞くよりも先に、教会の扉が開く。
「待っていたよ」
姿を見せたのは初老の男性だ。
服装を見る限り、ミナと同じく、教会に属しているのだろう。
にっこりと笑みを浮かべているものの、それが逆に怪しい。
どうして、こんな状況で笑うことができる?
その身にまとう、ねっとりとした嫌な気配はなんだ?
俺は自然と武器を構えていた。
「あなたは?」
「いきなりな態度だな。これだから、礼儀を知らない若者は」
「あなたの素性を聞いた。答えてほしい」
「やれやれ……まあ、いい。私は、アルトリウス・グレイゴム。簡単に言うと、教会をまとめる者だ」
「つまり、教会の親玉っていうことね」
「にゃー……タニア、それだと悪の幹部みたいだよ?」
「似たようなものかもよ」
タニアも鋭い目でアルトリウスを睨みつけていた。
本能的に、彼からこぼれる邪気を感じ取っているのだろう。
「アルトリウス様、なぜここに?」
エリスは面識があるらしく、そう問いかけていた。
「教会としての務めを果たしに来たのだよ」
「務め?」
「ミナ・ルサージュ」
アルトリウスはエリスを無視して、ミナを見た。
その視線は、ねっとりと絡みつくようで……
おぞましく、寒気すら覚えてしまう。
「君の力が必要だ」
「私の……ですか?」
「そうだ。見ての通り、今、この街は未曾有の危機に瀕している。このままでは、下手をしたら壊滅してしまうだろう」
「そんな……!」
「しかし……君ならば、この危機を退けることができる。教会史上、最強の力を持つ君ならば、零式監獄を打ち消すことができるだろう」
「ど、どうすればいいのですか!? 教えてください!」
「この街を救いたいかね?」
「もちろんです!」
そう言い切るミナは、以前とはまったく違う顔をしていた。
魔王と倒すという使命感に囚われてなくて……
ただ純粋に人々を助けたいという、温かい想いに満ちていた。
いつの間にこんなにも変わったんだろう?
まるで別人だ。
……いや。
もしかしたら、これが本来のミナの姿なのかもしれない。
本当は彼女はとても純粋で、まっすぐな気持ちを心に秘めていた。
でも、周囲のせいで歪まされて……
そして……おそらくだけど、その元凶が目の前にいる。
不思議とそう感じた。
「そう、そう思うことこそが教会に所属する神官の役目だ。いいぞ、ミナ・ルサージュ」
「アルトリウス……さま?」
「街を救いたいと言ったな? ならばその命、天に捧げよ」
「……え?」