作品タイトル不明
653話 生き残り
「?」
宙に浮かぶ女性はこちらに気づいた様子で、視線を送ってきた。
少しの間。
ややあって、女性はふわりと降りる。
「こんにちは」
そして、ぺこりとお辞儀をした。
「え? あ……ああ、こんにちは」
この状況下で挨拶?
呆気にとられてしまうものの、挨拶を返さないのも失礼かと思い、こちらも頭を下げた。
「本来ならば自己紹介をするべきなのですが、先に質問をする無礼を許してください。あなたは、レイン・シュラウドですか?」
「そう、だけど……」
「なるほど、理解しました。もう一つ、質問を失礼します。あなた達は、この事態を収束させるために戦っているのですか?」
「もちろんだ」
「なるほど」
女性と話をしていると、どこか不思議な感覚を抱いてしまう。
落ち着いている印象を受けるのだけど……
しかし、決して心は許していないような。
その視線は、とても鋭い感じがした。
「申し遅れました。私の名前は、オフィーリア。最後の天族です」
オフィーリアは綺麗に一礼してみせた。
「やっぱり、天族なのか」
「驚かないのですね」
「仲間にいるんだ」
「……」
オフィーリアの動きがピタリと止まる。
ゼンマイの切れた人形みたいで、ちょっと不気味だ。
「えっと……?」
「……失礼しました。驚きの事実を聞かされて、思考停止してしまいました」
「そ、そうか」
「仲間の天族というのは?」
「今は別行動をしているよ。えっと……嘘を吐いていない、って証明になるかわからないけど、その子の名前はイリスっていうんだ」
「……イリス……」
目を大きくするところを見ると、知っているようだ。
もしかしたら、親しい仲なのかもしれない。
「そうですか、あの子が……」
「えっ。もしかして、知り合いなのか?」
「はい。血の繋がりはありませんが、実の姉妹のように育ちました。てっきり、あの子も殺されてしまったのだと思っていましたが……」
「それは……」
一度は捕まったけど、逃げ出して。
復讐のために暴れ回り、封印されて。
その後、封印が解けた後に再び暴れて。
それと止めようとした俺達と……ああ、ダメだ。
情報過多で、とてもじゃないけれど簡単に説明することができない。
「ざっくり言うと、イリスは元気だよ!」
カナデは本当にざっくりとまとめてみせた。
「そうですか……それは良かったです」
オフィーリアが小さく笑う。
こう言っては失礼かもしれないが、その笑顔は意外だった。
まるで人形のように見えていたから……
そんなものではなくて、彼女もきちんと血が通っているのだろう。
「詳細を聞きたいところですが……しかし、そのような場合ではありませんね」
オフィーリアは振り返ることなく、背後から襲いかかってきた魔物を裏拳で撃退してみせた。
魔物は大きく吹き飛び、その身を魔石に変える。
強い。
強力な魔法を放つだけじゃなくて、身体能力も猫霊族並だ。
最強の中の最強種。
彼女が天族であることは間違いないだろう。
「提案があります」
「聞くよ」
即答すると、オフィーリアは少し驚いた様子で目を丸くした。
しかし、すぐ無表情に戻り、言葉を続ける。
「私は、この事態を収拾するようにマスターから命令されています」
「……もしかして、ラインハルトか?」
「はい、その通りです」
「にゃー……天族まで使役していたなんて」
「あたしらが言えたことじゃないけど、ラインハルトってとんでもないわね」
猫霊族、竜族、精霊族、天族。
確認できる限り、ラインハルトはこの四種族を使役している。
常識的に考えて、そんなことは不可能だ。
普通のビーストテイマーなら、最強種を使役することはできない。
……ということを、最近になって学んだ。
そんなラインハルトの正体、目的は……
いや。
今は考えている場合じゃないか。
「ラインハルトは?」
「今は別行動をしています」
「そうか……事態の収拾をしたいのなら、協力できないか?」
「はい、そのつもりでした」
意外というべきか、話がサクサクと進んでいく。
非常時だから話を合わせているだけなのか。
それとも、元々友好的なのか。
どちらかなのか判断することはできないけど、でも、協力してくれるというのなら、とても頼りになる。
「……レイン君、信用していいの?」
そっと、シフォンが問いかけてきた。
「……あの手のタイプは、なにかしら裏の考えを持っているものだよ?」
「……それは理解しているよ」
「……なら、どうして?」
「……今は非常事態だ。人手は欲しい。それに、最終的に敵対するとしても、今は手を取り合うことができるのなら仲良くしたい」
「……あは。レイン君らしい答えだね。うん、任せるよ」
納得してくれたみたいでなによりだ。
視線をオフィーリアに戻して、手を差し出す。
「じゃあ、一緒に戦おう」
「はい、よろしくお願いします」
オフィーリアと握手を交わす。
彼女の手は温かくて、どこかほっとした。