作品タイトル不明
652話 混乱の中の邂逅
「これでも……」
「くらいなさいっ!」
カナデとタニアが先陣を切り、魔物の群れに突撃した。
拳撃と蹴撃のコンボ。
ついでに尻尾を振り回して、次々と魔物を蹴散らしていく。
もちろん、彼女達だけに任せるなんていうことはしない。
「ファイアーボール・マルチショット!」
「ギガボルト!」
まずは俺とシフォンが魔法を放ち、
「ジャッジメント!」
「ホーリーアロー!」
エリスとミナも魔法を叩き込み、魔物の群れを殲滅した。
「ふぅ……大丈夫ですか?」
「は、はい。ありがとうございます……!」
襲われていた街の人を保護して、魔法で治療をする。
幸いというか、かすり傷程度なので、俺のヒールで問題はない。
「この先に避難所があります。そこまでの安全は確保しているので、今のうちに避難を」
「わ、わかりました!」
街の人は慌てて走り……ふと、途中で思い出したように足を止めて振り返り、頭を下げた。
そして、今度こそ避難所へ向かう。
「弱音なんてこぼしたくないけど……これ、かなり厳しいね」
「いつもの能天気さはどこへ行ったのよ、のーこ!」
「略された!?」
そんなやりとりをする辺り、カナデもタニアも、まだまだ余力はあるのだろう。
ただ、カナデが言うように厳しい状況なのは変わりない。
俺達よりも、街の人の方が問題だ。
突然の事件にパニックに陥り、街全体が混乱している。
幸いというべきか、以前の魔族出現事件から避難訓練が行われていたらしく、わりと迅速な避難ができているのだけど……
全ての人がうまくいくわけではなくて、今みたいに、逃げ遅れた人が多数出てきている。
この状況を見ると被害者も……
「レイン君」
そっと、シフォンに手を握られた。
「シフォン?」
「不安な気持ちはわかるよ、私も同じ。でも……がんばろう。がんばってがんばって、最善の結果を掴み取ろう。それができるのは、私達だけだよ」
「……そうだな。ありがとう、シフォン」
彼女は紛れもなく勇者だ。
もしも俺が継いでいたとしても、彼女のようにはなれなかったと思う。
「で……」
「二人はいつまで手を繋いでいるのかしら?」
「あっ……あ、あはは、ご、ごめんね?」
シフォンが赤くなり、ぱっと離れた。
そんな俺達を見ていたミナは、どこか柔らかい表情で言う。
「レインさんは皆さんに慕われているのですね」
「そうあってくれるよう、がんばっているよ」
「そうですね……今のレインさんを見ていると、自分の未熟さがとてもよくわかります。こうあるべきなのに、私達は……」
「ミナ?」
「……いえ、なんでもありません。いきましょう」
助けを求める人はたくさんいる。
その全てを手に取ることは難しいかもしれないが……
でも、あえてそうしてみせると言ってやる。
希望は捨てず、前だけを向いて行く。
――――――――――
「ディバインバスター!」
「雷鳴剣!」
ミナの魔法とシフォンの魔法剣が同時に炸裂して、一体の魔族を葬る。
そして、襲われていた人の治療を行い、避難所へ連れていき……
再び街を駆ける。
「にゃー、倒しても倒してもキリがないよ」
「ちょっと、まずい状況ね……」
戦闘が続いて、さすがのみんなも疲労と焦りを覚えている様子だ。
この状況が続くとまずいな。
「レインさん」
隣を走るエリスが言う。
「魔物や魔族の排除、人々の救助は大事ですが、しかし、このままでは埒があきません。それどころか、このまま押し切られてしまう可能性があります。どうにかして攻勢に出て、零式監獄の術者を突き止めなければ」
「それはわかっているんだけど……」
敵の数が多すぎるのが問題だ。
これだけの数を放置したら、間違いなく街の人に犠牲が出てしまう。
今は、片っ端から倒していくことで、なんとか被害を抑えているものの……
それをなくしてしまうと、一気に被害が拡大してしまうだろう。
とはいえ、エリスの言うことも確か。
どうにしかして術者を探し出したい。
そのために、あと少し、人手があれば……
「レイン、前方百メートルくらいのところで誰かが戦闘中だよ!」
カナデは猫耳をぴょこぴょこと動かしつつ、そう言った。
戦闘中ということは、街に滞在していた冒険者だろうか?
もしかしたら協力をお願いできるかもしれない。
そちらへ針路を取り、思い切り駆けていく。
そして……
「来たれ、嘆きの氷弾」
異界から氷の刃が無数に召喚された。
それらが雨のように降り注ぎ、広場を埋め尽くしていた魔物達を一掃する。
今のはイリスが使う魔法だ。
しかし、イリスではない。
「誰……だ?」
長い銀色の髪を持つ女性は、とても綺麗だった。
それだけではなくて、彼女は、もう一つ大きな特徴があった。
背中に八枚、八枚……計十六の翼が生えている。
「……天族?」