軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

651話 これからを

「レインさんっ!!!」

涙をこぼしつつ、ナタリーさんが抱きついてきた。

「にゃっ」

「むっ」

カナデとタニアが微妙な顔をするのだけど、今は見逃してほしい。

ナタリーさんはまだ震えていて、本当に怖かったのだろう。

「大丈夫か?」

「はい……レインさん達のおかげで、なんとか」

「怪我は……」

膝の辺りが大きく裂けていて、血で濡れていた。

致命傷というわけではないが、放置したら後遺症が残ってしまうかもしれない。

「ミナ、頼む」

「はい」

俺もヒールは使えるのだけど、やはりここは専門家に任せた方がいい。

そう思い、ミナを呼んだ。

ただ、もう少し考えるべきだったのかもしれない。

ナタリーさんは、すぐミナに気づいたらしく、険しい表情に。

「あなたは、元勇者パーティーの……どうして、こんなところに? またレインさんになにかしようとしているんですか?」

「い、いえ、そのようなことは……」

「なら、なにを? 以前、魔族に街が襲われた時はなにもしなかったというのに、今回は助けてくれるんですか?」

「……」

ナタリーさんも、このホライズンが大好きなのだろう。

だから、それをないがしろにしたミナに対してきつい言葉をぶつけてしまう。

そんな彼女の怒りを目の当たりにして、ミナは……

「申しわけありません」

今はこれが精一杯と、深く頭を下げた。

「今更と言われても仕方ありません。ですが、私は、この事態をなんとかしたいと思い……憎んで構いません。ですが今は、あなたの治療をさせていただけませんか?」

「……わかりました、お願いします」

ミナの言葉に心を動かされた様子で、ナタリーさんは、若干、表情を和らげた。

そしてミナの治療を受ける。

ミナが魔法を唱えて、ナタリーさんの傷を癒やす。

さすが治癒のエキスパート。

後遺症が残るようなことはなく、またたく間にナタリーさんの治療を完了させてしまう。

「どうでしょうか?」

「はい、問題ありません。ありがとうございます」

「……」

「どうしたんですか? 目を丸くして」

「いえ、その……ありがとう、なんて……そんなことを言われたのは、いつ以来だったのか、と思ってしまって」

想像だけど……

アリオスと一緒に旅をするうちに、ミナは感謝の言葉を受け取らなくなってしまったのだろう。

そうさせたのは自分の意思なのか。

あるいは周囲の影響なのか。

そして今、ナタリーさんから感謝の言葉を向けられた。

「ありがとう」の一言に込められた優しく、温かい想い。

それをしっかりと感じ取ることができたらしく、ミナは泣きそうになっていた。

「私は……こんな、こんな当たり前のことすら忘れていて……ううん。そこから目を逸らしていて、なにも気づかなくて……いったい、なにを……」

「大丈夫だ」

ミナの肩に手を乗せる。

「ミナは色々と間違えたかもしれないけどさ……でも、それで全部終わり、っていうわけじゃないんだ。これからがある」

「……これから……」

「過去はもうどうしようもないけど、未来は決まっていない。なら、これからのことを考えていくべきじゃないか?」

「……はい、そうですね」

ミナは指先で涙を拭う。

それから、小さく笑った。

その笑顔はとても晴れやかなもので……

こう言うと失礼なのだけど、とてもミナとは思えないくらい綺麗なものだった。

「……にゃー、またレインが」

「……あたしらがいるのに」

「……レインくんってば、あんなにたらしなの?」

後ろの方で変なことを言われているような気がするが、気にしない気にしない。

というか、今はそんな場合じゃないんだけどな……

「ナタリーさん、街の人の避難がどれだけ進んでいるか、知りませんか?」

「すみません……私、たまたま外に出ていたので、ギルドに集まってきているであろう情報はわからず……」

「そうですか……」

わりとまずい状況かもしれない。

ナタリーさんのように、どこかで魔物や魔族に襲われている人が他にもいそうだ。

「シフォン、エリス。街の人達の避難や護衛に、もう少し人を割いた方がいいと思うんだけど、どう思う?」

「うん、レインくんに賛成」

「思っていた以上に、被害が大きくなりそうですからね。私も問題はありません」

「よし。じゃあ……」

誰に頼もう?

そう考えた時、ショコラとミルフィーユが手を挙げた。

「おー、そういうことなら私達がいくぞ」

「ショコラは防御、私は治癒に長けていますからねー」

確かに。

二人なら安心して任せることができる。

「わかった、じゃあ頼むよ」

「おっけー」

「がんばってきますねー」

二人と別れ、別行動を取る。

その際、ナタリーさんのギルドまでの護衛も頼んでおいた。

「これでナタリーさんは安心だけど……」

未だ街の混乱は収まらない。

むしろ悪化していた。

あちらこちらから火の手があがり……

そして、怒号や悲鳴が聞こえてくる。

「くそっ」

零式監獄かなんだか知らないが、これを仕掛けたやつはいったいなにを考えている?

街をまるごと一つ、混乱させて……

たくさんの人を巻き込んで……

絶対に許せないことだ。

「レイン」

気がつくと、カナデとタニアがすぐ近くにいた。

二人は俺を見て、小さく頷いてみせる。

やってやろう、と言っているかのようだ。

「……そうだな、うん」

こんな事件を引き起こした黒幕は、きっと、どこかにいるだろう。

そいつに目にものをみせてやる。

やってやろうじゃない。

そう決意して、俺達は駆け出した。