作品タイトル不明
650話 信じる
どこか必死な表情で、ミナはそう訴えてきた。
「私は色々な失敗を繰り返して、そして、このような事態を招いて……どうしようもなく愚かでした。バカなことをしたと、そう思います」
ミナの顔に後悔の色が浮かぶ。
それは演技ではなくて、本物だ。
「だからこそ、償わないといけないですし……このような状況を放っておくことはできません。一人の人間として、放っておくことはできません」
「……ミナ……」
「ただ、今までが今までなので、私の言葉を信じていただくことは難しいと思いますが……ですが、私は……」
「信じるよ」
なおも言葉を重ねようとするミナに、俺は、そう言った。
「さっきも言っただろう? 俺はミナを信じるよ」
「レインさん……ありがとうございます」
ミナは深く、深く頭を下げた。
「じゃあ、ミナも一緒に来てくれないか? 俺達が敵を倒したりするから、ミナは援護と、あと、傷ついた街の人がいたら助けてほしい」
「わかりました」
「よし、いこう!」
「「「おーっ!!!」」」
――――――――――
ホライズンの至るところで戦闘が行われていた。
突然、現れた無数の魔物。
それと、少数ではあるが、強力な力を持つ魔族。
悪意が街を飲み込むかのように、あちらこちらで悲鳴があがる。
依頼なんて関係ない。
冒険者達はホームグラウンドを守るために、武器を取り戦いに出た。
騎士達は己の職務を守るため、信念を貫くため、剣と盾を手に戦いに出た。
各地で戦闘が開始されて、激しい攻防が繰り広げられていく。
しかし……
妙な光のせいで、街の外へ逃げることができない。
魔物も次から次にあふれて、キリがない。
地獄があるとしたら、それはここなのかもしれない。
「はっ、はっ、はっ……!」
細い路地を一人の女性が走っていた。
ホライズンの冒険者ギルド、受付嬢のナタリーだ。
肺が苦しく、息が切れてしまっている。
足に力が入らなくて、ちょっとでも気を抜けば倒れてしまいそうだ。
それでも足を止めることはできない。
なぜなら……
「いいナ、その表情。もっと怯えてくれヨ」
瞳は血のような赤に染まり、爪と犬歯が異様なまでに伸びている。
最強種の鬼族に似ているが、しかし、まったく異なる種族だ。
魔族。
人間の天敵である種族が、ナタリーをいたぶり、とても楽しそうに笑っていた。
「あうっ!?」
ついに足が追いつかなくなり、ナタリーは転んでしまう。
必死に立ち上がろうとするものの、もう力が入らない。
「おいおイ、鬼ごっこはもう終わりカ? つまらないナ、もっと狩りを楽しませてくれヨ」
「あ……ぅ……」
逃げる力は残っていない。
震えることしかできない。
どうして、こんなことになってしまったのだろう?
ちょっとした用事で外に出て、何事もなく仕事を終えるはずだった。
その後は、おいしいごはんを食べて、お酒も飲んで……
そんな予定を立てていたのに、どうしてこんなことに?
「ああ、楽しいナ。ほら、笑えヨ。俺はこんなにも気分がいいんだから、笑えヨ」
「ひっ」
魔族が目の前に迫り、思わずナタリーは悲鳴をあげてしまう。
体の震えが止まらない。
頭の中が真っ白になって、まともにものを考えることができない。
怖い怖い怖い怖い怖い……
でも。
ふと、ナタリーは一人の男性を思い浮かべた。
「あ……」
「うん? どうしタ?」
「あ、あなたなんか、はっ……ど、どうせ、この後、やられてしまうんですからっ!」
涙目で、途中、何度もつっかえつつ言い放つ。
「レインさんが、き、きっと……この街を……!」
「レイン? ……ああ、ヴェルグが気をつけろと言っていた人間カ。くだらなイ。人間にどれほどの力があるものカ」
「……なら、その体で確かめてみろ」
声は空から降ってきた。
――――――――――
「イグニションッ!」
クサナギの刃をカムイにまとわせて、サードフォームへ。
その状態でカートリッジを使用して、最大火力の攻撃を魔族に叩き込む。
「がぁっ!?」
魔族の左肩から腹部までを深々と切り裂いた。
本来なら、一刀両断するつもりだったのだけど……
さすがというべきか、直前で体を捻り、致命傷は回避したみたいだ。
でも、もう終わりだ。
「き、貴様は……!?」
「ナタリーに……」
「なにしてくれてんのよ!!!」
カナデとタニアが風のような動きで、それぞれ魔族の左右に回り込んだ。
そして、頭部を挟み込むように拳を撃ち出す。
魔族はそれに気づいていたものの、しかし、体が動きについていかない様子だった。
ゴガァッ!!!
「あ……が……」
二人の拳を受けた魔族は、言葉にならない悲鳴をこぼして、倒れて……
そして、塵となって消えた。
「……すごいなあ」
遅れてやってきたシフォン達は、以前よりもさらに強くなったカナデとタニアを見て、なんともえいえない微妙な顔をするのだった。