作品タイトル不明
643話 あの日のことを覚えているか?
「……」
部屋に案内されて、一人になったミナは、ベッドに座りぼーっと壁を眺めていた。
レイン達から聞かされた話が頭を離れない。
離れてくれない。
リースとモニカは、人間と魔族の和平を考えているのではなくて、もっと別の悪事を企んでいる。
そのために、ミナ達を騙していた。
リーンも彼女達のせいで犠牲になった。
その他、諸々……
「レインさんの言葉が本当だとしたら、私は……いったい、なんのために……?」
勇者パーティーではなくなり、反逆者に堕ちた。
それでも、世界のため。
神官の務めを果たすため、よかれと思ったことに手を貸してきた。
しかし、それはまるで意味のないこと。
逆に世界を混乱させる悪事。
「いったい、なにを……」
正しいと思っていたことは、まるで正しくなかった。
己の全てを否定されたような気持ちになってしまい、体に力が入らない。
それでも、ミナは両手を合わせて目を閉じる。
「神よ……」
祈りを捧げた。
それは、一種の逃避ではあるが……
そのことに気づくことなく、ミナは祈りを捧げる。
コンコン。
扉をノックする音でミナは我に返った。
こんな時間に誰だろう?
不思議に思いつつ、返事をする。
「はい……?」
「失礼します」
姿を見せたのはエリスだ。
「あなたは……」
「教会に所属している、聖騎士のエリスです」
「あぁ」
彼女に、ミナは救いを見た。
聖騎士のエリスならば、これからの自分の道を示してくれるかもしれない。
あるいは、これまでの行いを肯定してくれるかもしれない。
無意味ではないと、賛同してくれるかもしれない。
ミナは、すがるような視線をエリスに向けて……
しかしエリスは、鋭く冷たい視線を返してきた。
敵意といってもいい。
「え……あ……」
刺すような激しい視線をぶつけられたミナは、どうしていいかわからない。
言葉が出てこない。
ただただ、子供のようにうろたえるだけだ。
そんなミナを見て、エリスは……
剣を抜いて、彼女の首に刃をあてがう。
「ノイファという村に覚えは?」
「……え?」
なぜこんなことに?
ミナは状況を飲み込めず、キョトンとすることしかできない。
そんな反応を苛立たしく思ったのか、エリスは舌打ちして、さらに刃を突きつける。
薄皮が一枚切れて、つーっと血が垂れた。
「ノイファという村に覚えはありませんか?」
「あ、ありません……」
「本当に? 欠片も覚えていないのですか?」
「は、はい……」
「その程度……ということなのですか、あなたにとっては……!!!」
エリスの瞳が激情に燃える。
そんな彼女の反応を見ても、ミナは状況を理解できないでいた。
なぜ、自分はこんなことをされているのだろう?
なぜ、彼女は怒っているのだろう?
なにも理解できていない。
「……ノイファは、私の生まれ故郷です。そして、あなた達、旧勇者パーティーによって滅んだといっても過言ではありません」
「……え?」
「あなた達のせいで……!!!」
エリスは、今まで以上に苛烈にミナを睨みつけた。
剣を握る手に力が入る。
強く握りすぎて、ギシギシという音が聞こえてきそうだ。
「どういう……ことなのですか?」
「……昔のことです。私の故郷に、あなた達、旧勇者パーティーがやってきました」
エリスは語る。
旧勇者パーティーの愚かな行いのせいで、村に大きな被害が出たこと。
家族が犠牲になったこと。
その罪をミナに突きつける。
「そのことは……はい、覚えています。しかし、そこまでの被害は出ていないとアリオスが……」
「そのようなことあるわけないでしょう!!!」
「っ!?」
「あなた達のせいで、村は……家族は……!!!」
「私、が……」
教会によって、神と勇者にのみ従うように育てられて。
妄信的で。
自分でものを考えることをしない。
そんなミナでも、さすがにエリスの言っていることと、その感情を理解することができた。
彼女の感情を受け止めることができた。
そう。
「私が……あなたの村を、滅ぼした……?」