作品タイトル不明
642話 覚悟を見せろ
「……」
迷うような沈黙。
ミナはシフォンの手を取ることができず……
かといって、振り払うこともできず、どうしていいかわからないといった様子で視線を揺らしていた。
俺の記憶の中にある、凛とした姿は欠片もない。
迷子になった子供のようだ。
頼りなく、怯え、不安に包まれている。
今にも泣き出してしまいそうだった。
……今日はここまで、かな。
「ミナ」
「っ……!?」
声をかけると、ミナがびくりと震えた。
なにかされるかもしれないと怯えているみたいだ。
そんなことはしないが……
まあ、俺とミナの関係を考えると、そういう結論に至っても仕方ないか。
追放した側と追放された側だからな。
「ひとまず、今日はゆっくり休むといい。それから、しばらく考えて……そうだな、明日の夜くらいに、また話をしよう」
「え? で、ですが……」
それでいいのですか? というような視線を向けられて、頷いてみせる。
「場に流されるんじゃなくて、しっかりと考えて、自分で決断してほしい。今のミナは、まあ、敵という立場になるけど……味方になるのなら、それに越したことはないからな」
「……レインさんは、それでいいのですか?」
「うん?」
「私が仲間になるなんて……あなたは、許せるのですか?」
「わからないよ」
パーティーから追放されたことは、もう乗り越えた。
おかげでカナデ達に出会うことができたし、あまり気にしていない。
ただ、完全に気にしていないかと言われると、そうでもなくて……
やはり、ミナを目の前にしたら思うところはある。
でも、その恨みや怒りは、忘れても問題のないものだ。
俺一人の感情だから、俺が納得できればそれでいい。
中には、イリスのように、仲間の想いや無念を背負ったものもあるから、忘れてはいけない怒り恨みもあるけれど……
俺の場合は大したことじゃない。
「わからないけど、でも、今こうして普通に話している。武器を向けることはなくて、話をすることができている。なら、たぶん、なんとかなるんじゃないか?」
「適当ですね……」
「ほどほどに適当な方がいいと思うぞ。ずっと気を張っていたら、どこかで切れてしまうかもしれないし」
「そう……ですね」
「まあ、そういうわけだ。今日はゆっくり休むといい」
「……ありがとうございます」
俺は少し目を大きくした。
まさか、あのミナが俺に礼を言うなんて。
以前なら、絶対に有り得なかったことだけど……
俺がパーティーを追放されてから、色々とあり、ミナも変わったのだろうか?
できるのなら、良い方向に変わっていることを祈る。
「一つ、いいですか?」
「うん?」
「ヴェルグさんは……」
「ああ、あの魔族か」
ちらりとノキアさんを見ると、しっかりと頷いてみせた。
封印は完璧らしい。
「拘束させてもらっている」
「それを解くことは……」
「それはダメだ。さっきも言ったが、モニカとリースのことは信用していない。むしろ、敵だと確信している。ミナは、まだ交渉の余地があると思うから、魔力を封印するだけで体の自由は奪っていないが、あの魔族は別だ」
「悪いけど、私も同じ意見かな? 勇者とかは関係なくて、あの魔族は悪いことを考えていると思う。ミナさんは騙されているんだよ」
「……」
ミナはなんとも言えない顔に。
ヴェルグを信じたい。
しかし、俺達の話を聞いて、信頼が揺らいでいる。
そんなところだろうか。
「それじゃあ、部屋に案内するよ。ティナ、頼んでいいか?」
「ええでー。同じ女の方が、色々とやりやすいからなー」
ティナに案内されるまま、ミナは家の奥に消えた。
その背中はとても小さく見えた。
「フシャー……」
「むううう……」
「カナデとルナは、なんで威嚇しているんだ?」
「だってだって、あいつがレインをひどい目に遭わせたんだよね!?」
「許せないのだ! 我が姉のごはんを食べさせてやりたいのだ!」
「ルナ、それはどういう意味ですか?」
見ると、他のみんなも面白くなさそうな顔をしていた。
タニアなんて、敵意を隠そうとせず、思い切り睨みつけている。
以前、戦い、快勝したはずなのだけど……
再び顔を会わせたことで怒りが再燃したらしい。
「大丈夫だよ」
みんなを安心させるように、そう言う。
「ミナは、まあ……色々とひどいことをされたり、言われたりもしたけど、でも、悪意はなかったんだ」
役立たずと言われた。
出来損ないと似たようなことを言われたこともある。
ただ、そんな言葉を発する時、行為に及ぶ時、彼女から悪意を感じたことはなかった。
そうすることが正しい。
神の導きなのだ。
本気でそんなことを考えている様子だった。
どうしてそんな性格になってしまったのか、それはわからないけど……
たぶん、根っからの悪人ではないのだろう。
根本的に性格が歪んでいるわけではないのだろう。
だから、とても大変かもしれないけど、手を取り合うこともできるはずだ。
なんて話をすると、ニーナとフィーニア以外、盛大にため息をこぼした。
サクラまで、オフゥ、と呆れるような鳴き声をこぼしていた。
「レインってば、本当に底抜けのお人好しね」
「そのうち騙されるに賭けようかな、ボク」
「でもでも、それがレインの良いところだよね!」
「えっと……?」
つまり、どういうことだ?
「レインは、そのままでいてね、っていうことだよ♪」
そう言って、カナデはにっこりと笑うのだった。