作品タイトル不明
641話 遅いなんてことはない、手を取り合うことができる
「でも、それはミナさんが騙されていたからなのかもしれない」
「騙されて……いた?」
そんなことは考えてもいなかった。
そのような感じで、ミナは目を丸くした。
「人と魔族の和平について、リースとモニカがどういう風に語っていたか、詳しく教えてくれないか?」
「は、はい……それは構いません」
やや戸惑いつつも、ミナは素直に情報を渡してくれた。
曰く、リースは魔族の今後を憂いている。
人と手を取り合うべきと考えており、少数派ではあるが、魔族の中で活動を続けている。
その一歩として、元勇者であるアリオス達を保護した。
アリオス達に橋渡しをしてもらい、人と交渉をしたいと考えている。
そんな話を聞いて……
「はぁ……」
思わずため息がこぼれてしまう。
「な、なんですか、その反応は? 私は全てを包み隠さず、ウソなんて言っておりません」
「いや、ミナがウソを言っているとは思ってないさ。たぶん、本当なんだろうな」
良くも悪くも、ミナはウソがつけないタイプだ。
まあ……誤った情報を真実と思い込むことも多々あるため、そこが問題なのだけど。
「その話、おかしいと思わないのか」
「え?」
「リースが和平を望んでいたとしても、それは少数なんだろう? なんで、そんな立場にいる者が魔族の未来を左右できるんだ?」
「そ、それは……」
「本当に和平を望むとしたら、まずは、同族を説得しないとダメだろ。全員ではないとしても、半数近くは味方につけないとダメだ。そうして、初めて和平に向けて動くことができる」
「……」
「それに……俺が聞いた話と違うところがある」
「え?」
「俺も、そういう和平を望む魔族と少しだけと話をしたことがある」
西大陸へ渡り、そこで得た情報をミナに話した。
全てを明かすことはできないが……
今の情報と矛盾する点を突きつける。
「魔族がいくつかの派閥に分かれていて、しかも、四天王の一人が穏健派……? そんな、そのようなことは、リースさんは一言も……」
「俺が得た情報が間違っている可能性もある。だから、絶対にこちらが正しいなんて言えないが……ただ、人は自分が得た情報を信じるだろう? 俺としては、ミナの話がおかしいようにしか聞こえないんだよ」
「そ、それは……」
ミナの中に確かな自信があるのなら、俺の話を聞いても動揺することはなかっただろう。
ただ、小さいながらも違和感があったのなら?
リースやモニカに、多少なりとも不審感を抱いていたのなら?
その違和感は綻びとなり、疑念に変化する。
「それと、俺がリースとモニカを決定的に信頼できないところは、リーンの一件があるからだ」
「リーン……? 彼女がどうしたのですか。リーンは、レインさん達が殺したのでしょう?」
「リーンを手に掛けたことは否定しない。ただ、それは、リーンが魔族に堕ちたからだ」
「なっ……!?」
やはりというべきか、その情報は伝えられていなかったらしい。
そんなことはありえないというように、ミナは目を大きくして、体を震わせて驚いていた。
「リーンが……魔族に……? そんな、そんなことが……」
「それをしたのは、モニカだ」
「っ……!?」
もはや、驚きすぎて言葉が出てこないらしい。
「証拠を見せろと言われても、ないんだけど……でも、俺はこの目で見た。モニカが不気味な杖をリーンに刺して、その結果、彼女が魔族になったところを」
「……」
「魔族になったリーンは、なにもかも破壊するような勢いで……だから、殺した」
討伐した、とか。
対処した、とか。
そういう曖昧な言葉は使わなかった。
『殺す』という言葉を使用した。
それが、俺なりのせめてものけじめだ。
「他にも色々とあるが……ひとまず、そんなところだ」
「……」
「ミナは、これからどうする? どちらを信じる?」
「わ、私は……私は……」
ミナの目はうつろだった。
今まで信じていたものが、ガラガラと崩れ落ちて……
なにを拠り所にすればいいかわからず、道を完全に見失ったように見えた。
「私は……間違って、いたのですか……?」
その問いに答えられる者はいない。
「……ねえ、ミナさん」
そう思っていたら、シフォンがそっと前に出た。
「前にも言ったけど、私は、あなた達旧勇者パーティーの討伐を命じられたの」
「と、討伐……? そ、そんな……私達は、世界のために……」
「うん。他の人はどうなのか、よくわからないけど……ミナさんは、本気でそう思って活動してきたんだと思う。でも……道を間違えた。やり方を間違えた」
「う……」
「だけど、やり直せないことはないと思うんだ」
シフォンは小さく笑い……
そして、ミナに手を差し出した。
「取り返しのつかないことをしちゃったかもしれない。一生かけても償えないかもしれない。でも、正しい道に戻ることはできると思うの。それが遅いなんてことはない。今からでも、やり直すはことはできると思うの」
「……シフォンさん……」
「だから、私達と一緒にがんばってみない?」
「……」
ミナは迷うような顔をして、シフォンの手を見る。
じっと見つめて、そっと手を伸ばして……
しかし、最後の一歩が踏み出せない様子で、シフォンの手を取ることはない。
「私は……私は、まだ、どうすればいいか……」
「うん、了解。気持ちの整理はすぐにつかないと思うから、仕方ないよね。だから、まずはゆっくりと考えるといいよ」
「それで、いいのですか……?」
「いいよ。私は、ミナさんを討伐するよりも、仲間になってくれた方がうれしいからね」
「っ……あなたは……」
ミナはそれ以上、言葉を紡ぐことはできず、うつむいてしまう。
その肩は、わずかに震えていた。