作品タイトル不明
638話 最強種を敵に回すと厄介極まりない
ソラとルナとティナがアリエイルの相手を。
竜族のアリエイルは、オールラウンダーだ。
ソラとルナだけでは分が悪いが、そこにトリッキーな戦い方をするティナが加わることで、五分の状況に持っていくことができた。
その一方で、ニーナとノキアさん、フィーニアとサクラがヴェルグの相手を。
ヴェルグは影から分体を作り出して、数で応戦する。
しかし、ニーナとノキアさんの連携。
フィーニアとサクラのコンビネーションなどで、こちらは五分以上の戦いに持っていくことができた。
そして俺は……
「死んじゃえ!」
ミツキという名の猫霊族と戦闘を繰り広げる。
彼女は爆発的な速度で加速して、瞬時に俺の目の前に。
その勢いのまま拳を振るい、台詞通り殺しにかかってきた。
「くっ」
上体を逸らすことで、彼女の拳を回避した。
なかなか危ういところではあるが、しかし、見えないわけじゃない。
「いきなり戦闘を選ぶなんて!」
「うるさいな、説教なんていらないよ!」
「このっ!」
無鉄砲というか、猪突猛進というか。
彼女を止めるには無力化するしかない。
そう判断した俺は、改めて戦闘体勢に移行する。
意識を集中させて、頭の奥にあるスイッチを切り替えるような感覚。
スゥッと思考が冷えていき、視野が広くなる。
「うざい、死ね!」
ミツキは鋭く言い放ち、拳撃と蹴撃を交互に繰り出してきた。
速く、鋭く、重く。
一撃でも直撃したら、その時点でアウトだろう。
でも、それは許さない。
「こいつ……!?」
ミツキの攻撃を避けて。
あるいは受け流して。
被弾をゼロに抑えると、ミツキが驚いたような顔に。
たぶん、今まで苦戦したことがなかったのだろう。
その力を持って、敵を一蹴してきたのだろう。
だからこその動揺。
慢心と言えるだろう。
そこに付け入る隙がある。
「イージス!」
「にゃ!?」
盾を展開して、ミツキの拳を防いだ。
ガンツ特製の小手で、強固な魔法の盾を展開することができる。
そんなものを無警戒に殴ったせいで、ミツキは小さな悲鳴をあげて、尻尾をビリビリと震わせる。
そうして動きが止まったところに、今度は、ワイヤーを射出して彼女を捕まえる。
そのまま遠心力を使い、ミツキを放り投げて……
「ファイアーボール・マルチショット!」
連続で火球を叩き込む。
魔法に弱い猫霊族は、普通なら防御できないはずだ。
「このっ……なめないでよね!!!」
ミツキは激高すると、ワイヤーを力任せに引きちぎる。
さらに宙を蹴ることで慣性を無視した動きをして、被弾を最小限に押さえてみせた。
でも、そう簡単にいかないことは予想済だ。
「来い!」
短剣を次々と召喚して、連続で投擲する。
「なっ!?」
「これならどうだ?」
「いったい、どこからそれだけの数を……ああもうっ、うっとうしい!」
わりと全力で投擲しているのだけど、ミツキは全て回避してみせた。
なんていう身体能力だ。
カナデと同じ……いや。
もしかしたら、カナデ以上かもしれない。
しかし。
身体能力はすごくても、その他はどうだろうか?
「ファイアーボール・マルチショット!」
「ふんっ、バカの一つ覚え?」
再び火球を放つと、ミツキは余裕を持って回避してみせた。
ただ、魔法は警戒しているらしい。
即座に反撃に出ることはなくて、様子を見るかのように、一定の距離を保っている。
うん。
そうすると思っていた。
「なによ、あんた。人間のくせに、そこそこやるじゃない」
「お前もな」
「お前とか言わないで。私は、ミツキっていう名前があるんだから」
「名前で呼んでいいのか?」
「別に? そんなこと、気にしないし」
「そっか」
こうして話していると、彼女から悪意を感じることはない。
やや口が悪くて。
喧嘩っ早いところがあるのだけど。
でも、悪い子には見えない。
口ではなんだかんだ言いつつも、ラインハルトのためにがんばっている。
そんなところだろうか?
確かな絆を感じられる。
うらやましい関係だ。
俺達も負けないように、日頃から信頼を築いていかないといけない。
それはともかく……
今は戦闘に集中しよう。
というか、終わりにしよう。
「なら、ミツキ」
「なによ?」
「とりあえず、拘束させて話を聞かせてもらうぞ」
「ふん、できるものならやってみなさい」
「そうさせてもらう」
「にゃっ!?」
再び複数の火球を放つ。
火球に驚いたミツキは後退して……
ぐらりと体勢を崩し、そのまま膝から倒れた。
「あ、あれ……? 体が……」
「コイツの力を借りた」
宙に差し出した指先にハチが止まる。
アールビーという麻痺毒を持ったハチだ。
普通、最強種に毒なんて効かないのだけど……
アールビーの毒は魔力を元に生成されている。
故に、魔法に弱い猫霊族には有効だ。
「う、うううぅ……こ、この私がこんなことでぇ……!」
ミツキは恨みがましくこちらを睨みつけるのだった。