作品タイトル不明
636話 変幻自在
イミテーションテイルというトカゲがいる。
極端にサイズが違わなければ、どんなものにでも変身できるトカゲだ。
イミテーションテイルは狩りの対象に変身して、そっと群れに潜り込み……
対象が完全に油断したところで牙を剥いて、狩りを行う。
かなり厄介な性質を持つトカゲだ。
今回、そのイミテーションテイルの力を借りることにした。
リーンに変身して街を歩いて、ミナを誘い出すエサとする。
死んだはずのリーンが現れれば、さすがのミナも動揺して、深く考えることなく追いかけてくるだろう。
その作戦は成功して、ショコラがミナの捕縛に成功した。
それを見届けた俺は、イミテーションテイルとの同化を解除した。
同化というのは、一時的に対象に魂を移す技法のことだ。
イミテーションテイルを使役しても、記憶がないため、リーンに変身させることはできない。
仮に変身させられたとしても、思い通りに動かすことは難しい。
ならばいっそのこと、自分で全てやってしまえばいい。
というわけで、イミテーションテイルと同化した、というわけだ。
「……さて」
ミナは捕縛した。
ヴェルグは一人で、こちらは、カナデとタニアとイリスを除いたメンバーが勢揃いだ。
カナデとタニアとイリスは、念の為、街に残ってもらっている。
「このままおとなしく引いてくれるとうれしいんだけど……」
「はっ、そんなわけにはいかねえな」
「だよな」
ヴェルグはこちらを睨みつけて、闘気を膨らませていく。
どんな命令を受けているかわからないが、ミナは重要なキーマンだ。
そのミナを失うことになれば、ヴェルグの企みは瓦解したに等しい。
故に、ここで退くという選択はないのだろう。
なにがなんでもミナを取り戻そうとするはずだ。
「なら……俺達が相手だ」
魔法による迷彩を解除。
ソラとルナとニーナ。
ティナとフィーニアとサクラ。
そして、ノキアさん。
潜んでいたみんなが一斉に姿を見せた。
数で叩くことになるが気にしない。
ヴェルグの仲間は、無差別に街を襲うようなヤツだ。
そんな連中、放置するわけにはいかない。
逃さないためにも、ここで確実に叩く。
「悪いな。卑怯と言われようが、このまま押し切らせてもらう」
「なら、俺も援軍を呼ばせてもらうぜ」
ヴェルグは魔力弾を空に向けて撃つ。
それは花火のように弾けて、合図となるのだけど……
「……?」
ヴェルグの仲間ということは、魔族。
どんな手で攻めてくるかわからないため、警戒していたのだけど……
なぜか、なにも反応がない。
こちらのタイミングを狂わせるための作戦?
不意打ちのチャンスを狙っている?
いや、それにしては焦らしすぎというか……
「……おいおい、どういうことだ?」
ヴェルグも混乱している様子だった。
怪訝そうな顔をして、疑問を隠そうとしていない。
演技……だとしたらできすぎている。
魔族ではあるが、役者を目指すことができるだろう。
「レイン、よくわからぬが、これはチャンスではないか? ヤツの援軍はなさそうだぞ」
「一気に畳み掛けてしまうのべきでは?」
「それは……」
ルナとソラの言う通り、チャンスかもしれない。
ただ、嫌な予感がするというか……
どうする?
攻めるべきか、守るべきか。
迷い、答えを出しかねていると……
「おー、魔族はっけーん!」
「コイツ、ウソはついていなかったみたいね」
聞き覚えのない声が二人分。
そちらに視線をやり……思わず目を大きくして驚いてしまう。
「なっ……!?」
頭からぴょこんと飛び出した猫耳。
それと、ふりふりと揺れる猫の尻尾。
もう一人は、天を貫くような角。
鱗に覆われた尻尾。
カナデではなくて、タニアでもなくて……
見知らぬ猫霊族と竜族の女の子がいた。
竜族の女の子は、片手で魔族らしきものを掴んでいた。
らしきもの、というのは……体が失われて、首だけの状態になっているため、判別がつかないからだ。
ただ、あんな状態でも生きているみたいなので、そんなことが可能なのは魔族くらいのものだ。
「案内ごくろうさま」
「た、たすけ……!!!」
「じゃあ、さようなら」
竜族の女の子はにっこりと笑い、掴んでいる頭部を、そのまま握りつぶした。