作品タイトル不明
634話 過去の愚行
作戦の実行は数日後。
具体的な日程は、ミナの動きを探り、その動向を観察してから決めることになった。
それで今日の会議は終わり。
みんなは、それぞれ自室へ戻り……
せっかくだから泊まっていけばいいと、シフォン達は客間に案内した。
以前、リフォームをしたから、十人くらいまでなら客が来ても対応できる。
その後、俺も自室へ戻り、ベッドに入ろうとして……
ふと思い直して外に出た。
「さすがに冷えるな」
夜は冷たい。
風が吹くと体が震えてしまいそうになる。
「……」
そんな中、エリスがいた。
なにをするわけでもなく、一人、夜空を見上げている。
「ここは綺麗な星空が見えますね」
俺に気づいていたらしく、そう話しかけてきた。
「綺麗だろう?」
「はい。ありきたりな表現ですが、宝石を散りばめたようで、とても綺麗です」
「自慢の星空なんだ」
ホライズンで活動を始めて、そこそこ。
故郷というわけではないし、腰を落ち着けたわけでもない。
それでも、この街のことが大好きだ。
街の人達は優しくて家族みたいで……
穏やかな気候は心地よく……
そして、こうして綺麗な光景を見ることができる。
ホライズンはホームグラウンド。
第二の故郷と言えるような場所になっていた。
「……」
「……」
言葉を交わすことなく、星空を見上げて……
「聞いてもいいか?」
それでも、このまま黙っていることはできず、そう尋ねた。
「なんでしょうか?」
「……ミナとなにか因縁が?」
遠回りな話はエリスも好かないだろう。
そう判断して、ストレートに尋ねてみることにした。
「どうしてそう思うのですか?」
「ダンジョンでのエリスを見て、そう思ったんだ。エリスはミナを憎んでいる、過去になにかあったのかもしれない……って」
「……そうですか」
「余計なおせっかいかもしれない……というか、そのものなんだろうけど、それでも放っておくことはできなくて。よかったら、話してくれないか?」
「……わかりました」
エリスは、夜空から俺に視線を移した。
どこか寂しい顔をしつつ、口を開く。
「ミナ・ルサージュは……家族の仇のようなものです」
エリスは語る。
それは昔の話。
エリスの故郷の近くに盗賊が根城を構えた。
なかなかの強敵で、冒険者に依頼を出しても返り討ちにされてしまう。
ほとほと困り果てたところで、アリオス達勇者パーティーが街を訪れた。
旅の途中、たまたま立ち寄っただけなのだけど……
これ幸いと、街の人はアリオス達に盗賊を倒してほしいと頼んだ。
アリオス達はその依頼を引き受けて……
しかし、盗賊を倒すことはしない。
それどころか、あろうことか……今後の旅の資金を得るために、盗賊が溜め込んでいたお宝を掠め取り、そのまま立ち去った。
当然、お宝を取られた盗賊は激怒した。
街の人がやったことと勘違いして、街を襲い、ありったけの略奪を働いた。
そして……エリスの家族は、その犠牲になった
「……と、いうわけなのです」
話を聞いて、思わず頭を抱えてしまいそうになる。
話を聞く限り、俺が加入する前のことらしいが……
まさか、そんなバカなことをしていたなんて。
……と、驚いて、呆れるのはまだ早かった。
「その後、盗賊は討伐されることになりますが……誰が討伐したと思いますか?」
「それは、他の冒険者か、あるいは騎士が……いや、まさか」
「そのまさかです。勇者パーティーが討伐したのですよ」
盛大に火種を撒き散らして……
そして、自分でそれを刈り取る。
メチャクチャだ。
おそらく、アリオス達は二つの目的があったのだろう。
一つは、自分達が火種の原因となったことを隠蔽するために、盗賊を討伐する必要があった。
もう一つは……派手な悪事をやらかした盗賊を討伐することで、さらなる名声を得ることを目的としていたのだろう。
「そのことを訴えたりは……?」
「もちろん、しましたが……しかし、証拠はありませんでした。その時の私は、ただの一市民。相手は勇者。どちらの話を信じるか……答えは考えるまでもありません」
「そう、だな……」
「そして、真実は埋葬されました。そのことが悔しくて、私は勇者パーティーを問い詰めて……その時に、ミナ・ルサージュはこう言ったのです。『これは大義のために必要なことなのです。あなた方の犠牲は無駄にしません』……と」
ミナのことだ。
挑発するわけじゃなくて、たぶん、本気で言っているのだろう。
「ふざけないでほしい……!!! 私は、私の家族は、勇者パーティーの糧となるために生きてきたわけではありません! 父も母も、とても優しくて誠実な人で……そして妹は、まだ三歳でした。楽しいことからこれからたくさんあるはずなのに、たくさんの笑顔が待っているはずなのに……その未来を理不尽に奪われたのです。彼女が言う『大義』とやらに奪われたのです!」
当時のことを思い返しているらしく、エリスは拳を握りしめていた。
強く、強く……爪が刺さり血が出てしまいそうなほど、強く握りしめていた。
やがて、その手がふっと緩む。
「……そんな話です。ありふれているといえば、ありふれている話です」
「……エリス……」
「今回、私が教会から派遣されたのは、ただの偶然です。教会も教会で、ミナ・ルサージュの暴走をよしとしておらず、なんとかしたいと思っていて……それで、私に彼女を捕縛、あるいは討伐するように命じました」
「それを……チャンスだと思っている?」
「はい」
即答だった。
「過去のことは考えないようにしてきました。ただ、あんな惨劇を繰り返さないように、強くあろうと己を鍛え……そして、聖騎士となり、日々を駆け抜けてきました。なので、本当に復讐は考えていなかったのです。ですが、運命なのか、私にミナ・ルサージュの捕縛、あるいは討伐の任が下りました。なればこそ、私は……」
これは運命だ。
家族の仇を討つ機会が巡ってきたのだろう。
エリスは、そう言う。
「レインさんは、どうしますか? このことを教会に報告しますか? それとも、私との協力関係を解消しますか?」
「……どっちもできないよ」
エリスの抱えている怒りは正当なものだ。
復讐は当たり前の権利だ。
なら……
「捕縛して王都へ連れて行くか。あるいは、その命を断つか。その判断はエリスに任せる」
「……ありがとうございます」
後者を選択したとしても、俺はエリスを支持しよう。
だって……家族を奪われる悲しみと苦しみは、痛いくらいにわかるから。