作品タイトル不明
632話 第三勢力
「あっ……が……」
とある魔族は、腹部を貫かれる激痛に悶えていた。
すぐに回復しようとするが、もはや声を発することも難しい。
力が抜けて、膝から地面に崩れ落ちる。
ややあって、その体は灰になって風に消えた。
「雑魚だね」
冷たい視線で灰を見つめるのは、猫耳がついた少女だ。
不機嫌そうに舌打ちをして……
そして、念を押すかのように灰を靴の踵で踏み潰す。
「あー……イライラする。雑魚のくせにでしゃばらないでよ」
「あらあら、ミツキはいつも不機嫌ね」
そう声をかけたのは、竜の角と尻尾を持つ少女だ。
妖艶な笑みを口元に浮かべ……
猫耳の少女を「ミツキ」と呼ぶ。
「なによ。アリエイルは文句あるの?」
「いいえ、そういうわけじゃないわ。ミツキは、きちんと仕事はしているもの。それなのに文句をつけるとか、ないわ」
「なら、なによ」
「もう少し笑顔になったら、っていう話よ」
「うるさいなあ……笑顔を作る必要なんか、別にないじゃん」
「そうでもないわよ? 主も、ぶすっとしたしかめっ面よりは笑顔の方がうれしいだろうし」
「……本当に?」
「ええ、本当に。笑顔の女の子はかわいいから、大抵の人は好きよ?」
「……考えてあげる」
アリエイルと呼ばれた竜の少女は、笑顔でミツキの頭を撫でた。
ミツキは、子供扱いするなと唇を尖らせるものの……
頭を撫でる手を振り払うことなく、好きにさせている。
「なにをしている?」
「ラインハルト!」
黒尽くめの男……ラインハルトが現れると、ミツキは目を輝かせた。
子供のように喜び、彼に抱きつく。
「敵がいたからぶっ殺した。偉い? 偉い?」
「敵?」
なんのことだ? と、説明を求めてラインハルトはアリエイルを見る。
ころっと変わるミツキの態度に苦笑しつつ、アリエイルが答える。
「魔族と鉢合わせたのよ」
「こんなところに魔族が?」
「不思議でしょ? 私も疑問に思ったから、生け捕りにしようと思ったんだけど……」
「うっ」
ミツキが気まずそうに視線を逸らす。
「ミツキが全滅させちゃった」
「……向こうが悪いし。いきなり襲ってきたし」
「やれやれ」
ラインハルトはため息をこぼした。
魔族は、全ての生き物の天敵で……
逆に言うのなら、魔族の天敵は最強種だ。
そんなものと遭遇したのなら、いきなり襲いかかってきてもおかしくはない。
だとしても、敵の目的を確認しておきたかった。
こんなところ……ホライズンに魔族がいる理由は気になる。
「……まあいい」
「あっ」
軽く頭を撫でられて、ミツキは再び笑顔になる。
主に怒られることがないと安心したのだろう。
そう……猫霊族のミツキと竜族のアリエイルは、ラインハルトと契約して、彼を主として慕っている。
「ミツキはともかく、アリエイルはなにかしら推測を立てているんじゃないか?」
「あら、わかる?」
「お前は抜け目のない女だからな」
「ふふ、褒め言葉ありがとう」
アリエイルは、指先を唇に当てて考えて……
ややあって、口を開く。
「ちゃんと確認したわけじゃないから推測になるけど、たぶん、なにかしらの呪をしかけようとしていたんだと思うわ」
「どんなものだ?」
「それはわからない。確認する前に、ミツキが殺しちゃったし」
「うっ……」
「推測でいい」
「っても、推測のしようがないんだけど……まあ、かなり厄介なものだと思うわ。でもって、とんでもなく悪質なもの。ものすごい嫌な感じがするもの。とはいえ、ちょっと微妙な感じもして……魔族だけの仕業なのか、怪しいのよね。他にも誰か関わっていそう」
「ふむ」
ラインハルトは考える。
呪をどうするか、ということではない。
自分の目的を邪魔するものかどうか。
害となるものなのか。
その点を考える。
「どうする、ラインハルト?」
「必要なら、私、敵をぶっ殺すよ?」
二人の視線を受けて、ラインハルトは首を横に振る。
「いや、放っておけ」
「いいの?」
「街がどうなろうと関係ない。俺の目的は別のところにある」
「そうだけどね」
「不満か?」
「いいえ、なにも」
アリエイルは笑う。
「私は、主の願いを叶えるための道具だもの。道具が不満を口にすることはない、そうでしょう?」
「いい返事だ」
ラインハルトは小さく笑い……
「ただ、それとは別にやっておいてほしいことがある」
「やってほしいこと?」
「元勇者パーティーのミナ・ルサージュがこの街にいるらしい。聞きたいことがあるから、捕まえてきてくれ」