作品タイトル不明
629話 エリスの怒り
「サクラ、援護を頼む!」
「オンッ!」
まず最初に、俺が前に出た。
クサナギを構え、ヴェルグに向けて突撃。
駆けた勢いを乗せて斬りつける。
ワンテンポ遅れて、サクラが駆けてきた。
鋭い牙をヴェルグに突き立てようとして、小刻みな動きで接近する。
「おいおい、二対一ってのは卑怯じゃねえか?」
「いきなり攻撃してくるのは卑怯じゃないのか?」
「はっ、あれは正当防衛だよ」
「戯言を!」
「グルルルゥッ!!!」
クサナギの刃で斬りつけて……
ヴェルグは回避するものの、そこにサクラが飛び込み、牙を突き立てようとする。
ヴェルグの影が意思を持ったかのように盛り上がり、盾のように形成されて、サクラの突撃を止めた。
攻撃だけじゃなくて防御も可能。
汎用性が高く、なかなか厄介だ。
でも、こいつは怖くない。
アルテラと対峙した時のような重いプレッシャーを覚えることはないし、モナが見せる不気味な圧を受けることもない。
「でも」
油断禁物。
しっかりと戦い、対処する。
まずは、無力化を狙い……
それが難しいのなら、ここで倒す。
それくらいの意気込みで戦闘を加速させていった。
――――――――――
「ミナ・ルサージュ。おとなしく投降してください。そして、国と教会の裁きを受けてください」
エリスは剣の柄に手を伸ばしつつ、ミナを鋭い目で睨みつけた。
これが穏便に済ますことができる最後のチャンスだ。
勧告を受け入れないのならば、斬る。
そんなエリスの迫力に押されることなく、飲み込まれることもなく、ミナはまっすぐに視線を返してきた。
「いいえ、投降はできません。私には、やるべき使命があるのです」
「その使命とは?」
「勇者パーティーの一員として、世界に平和をもたらすこと。魔王を討伐するのではなくて、魔族と和平を結ぶ……手段は変わりますが、求めているものは平和なのです」
「あなたは、勇者パーティーの一員ではありません。すでに、アリオス・オーランドは勇者の称号を剥奪されました」
「それは……」
一瞬、ミナは苦い顔をした。
ただ、すぐに心を持ち直した様子で言葉を続ける。
「私にとっての勇者は、アリオスだけです。彼こそが勇者なのです。ですから、アリオスが目指している理想を実現するため、手足となって働かないといけないのです」
アリオスのために戦う。
一見すると、カナデ達がレインに抱いている想いと変わらない。
しかし、決定的に違う部分がある。
それは、ミナが自分の意思を持っていないことだ。
アリオスの考えていることが絶対的に正しいと信じて……
自分の考えを持つことなく、疑うことなく、言われるままに行動する。
カナデ達は違う。
基本的にレインの言葉を信じて、彼のためになる行動をとるが……
間違ったことをしたと感じたのならば、その間違いを正す。
それは違うと、諭す。
それでも納得してもらえないのなら、実力行使してでも止めてみせる。
幸いというべきか、そのような事態に発展したことはないが……
それだけの覚悟を持ち、自分の意思を持っていた。
「ミナ・ルサージュ……あなたという人は」
ミナの説得は不可能だ。
そう判断したエリスは剣を抜いた。
「実力で拘束させていただきます」
「そう簡単にいくと思わないでください」
先手はエリスだ。
爆発的な加速力を見せて、一気に距離を詰める。
同時に剣を振り、ミナの腕を狙う。
一方のミナは、いくらかの余裕があった。
バックステップでエリスの攻撃を回避。
反撃の魔法を放ち、追撃を防いで……
さらに数発、魔法を連射して、攻守を逆転してみせる。
落ちぶれたとはいえ、元勇者パーティーの一員だ。
戦闘力は高く、聖騎士が相手でも、すぐにやられることはない。
……ただ、それはあくまでも最初だけだ。
近接戦闘をメインとするエリス。
後方支援をメインとするミナ。
真正面から激突すればどちらが有利か、考えるまでもない。
「くっ」
エリスの剣の勢いが増して、ミナは次第に追い込まれていった。
致命的な一撃はもらっていないものの、それも時間の問題だ。
「私は、このようなところで……!」
ミナは気合を振り絞り、必死に魔法を唱えて応戦した。
こんなところで負けるわけにはいかない。
捕まるわけにはいかない。
そんなことになれば、今までの自分の生はなんだったのか?
アリオスと一緒に行動して、世のためと思い行ってきたことが、全てなかったことにされてしまう。
間違いだったと認定されてしまう。
それは、ミナの生を否定するようなことだ。
「私は、私は……間違ったことなんてしていません!」
ミナは振り絞るようにして叫び、
「ふざけないでくださいっ!!!」
その想いをかき消すかのように、エリスが強く強く言葉をぶつけた。
「えっ……」
「あなたの、あなたのせいで……!!!」
エリスの瞳が怒りで燃え上がる。
いや。
怒りなんて生易しいものではない。
憎しみの炎だ。
そんな予想外の反応に、ミナは気をとられてしまい……
そこにエリスの刃が迫る。