作品タイトル不明
628話 追撃戦へ
「みんな、ストップ」
先頭を行く俺が合図を送ると、みんな、足を止めた。
「分かれ道だ」
右と左、シンプルに二つに通路が分岐していた。
足跡が残っていないか確認するものの、ここは埃などが積もっていたわけではなくて、どちらへ移動したかわからない。
「サクラ、匂いを辿れないか?」
「スンスン、スンスン……キューン」
サクラは申しわけなさそうに尻尾を下げた。
でも、それも仕方ない。
長い間使われていなかったであろう隠し通路は、色々な匂いが混ざっていた。
なまじ鼻が効く分、色々な匂いを嗅ぎ取ってしまい、混乱してしまったのだろう。
「レインくん、少し危険だけど二手に分かれるのが一番だと思うかな」
「うむ、私もシフォン殿の意見に賛成だ」
「……そうだな」
ミナと魔族を相手にするのなら、できればみんな一緒がいい。
ただ、それ以上に、このチャンスを逃したくない。
ここでミナを逃せば、後々、どんなことになるか。
多少のリスクを覚悟で、二人を追いかけるべきだ。
「じゃあ……カナデとシフォンとステラ、俺とサクラとエリス、っていうメンバーはどうだろう?」
「あれ!? 私、レインと別行動なの!?」
「戦力的に考えると、最強種のカナデとサクラは、別々にした方がいいだろう?」
同じく、勇者であるシフォンと、同じ血を引いている俺は別行動を取るべきだ。
「うぅ……そう言われると仕方ないけど、レインと一緒がよかったなぁ」
「オフゥ」
「……なんか今、サクラに勝ち誇られたような?」
シフォン達を見ると、異論はないというように頷いた。
「決まりだ。急ごう!」
俺とサクラとエリスは左へ。
カナデとシフォンとステラは右へ。
すぐに片方のチームが見えなくなり、大丈夫だろうか? という不安が湧いてくるものの……
でも、そんな不安はすぐに打ち消した。
カナデがいる。
シフォンとステラがいる。
きっと大丈夫だ。
カナデ達ならうまくやってくれるだろうと、信頼することができる。
逆に心配をかけないように、俺達もしっかりとやらないと。
「……レインさん」
走りつつ、エリスが声をかけてきた。
「もしも、このままミナと魔族と戦うことになったのなら……その時は、私にミナの相手をさせてくれませんか?」
「エリスが?」
「私は聖騎士なので、神官であるミナの手の内を読みやすいです。一番、適任だと思いますが、どうでしょうか?」
「それは……」
エリスの言っていることに間違いはない。
合理的に考えるのなら、エリスにミナの相手をしてもらうのが一番だ。
ただ、少し気になることがある。
「それだけか?」
「え?」
「ミナの相手をする理由は、本当にそれだけか?」
ミナの名前を口にする時、若干ではあるが、エリスは険しい表情になる。
それを見ていると、なにかしら因縁を抱えているのでは? と考えてしまう。
エリスが敵という可能性は、あまり考えていない。
彼女の態度はやや硬いが、その言葉からは誠実さを感じることができた。
ただ……
ミナに対して、なにかしらの想いを抱えているのなら危険だ。
その内容によっては、我を忘れ、暴走してしまうこともありえる。
そんな事態を回避するために、ミナと近づけない方がいい、という結論になるかもしれない。
「……私と彼女の間には、色々とあります」
「そうか」
「もっとも、あの様子では、ミナはなにも覚えていないようですが……」
エリスは自嘲するような顔をして……
次いで、表情を引き締めた。
「因縁はあります。しかし、自分の仕事をしっかりと果たすことを約束いたします」
「ウソじゃないな?」
「聖騎士の名にかけて」
「……わかった。それじゃあ、ミナの相手はエリスに任せる」
「ありがとうございます」
エリスが暴走しないと断言することはできない。
これだけ落ち着いているところを見ると、逆に不安になるところもある。
でも、エリスの顔を見ると、その奥に激情が隠されているのが見えて……
とてもじゃないけれど拒むことはできなかった。
サクラがエリスに警戒したのは、この激情を感じ取ったからなのだろう。
エリスを止めることはできない。
なら、できる限り俺がサポートしよう。
「とはいえ、俺達が当たりを引いていないと意味がないんだけど」
「……その心配は、どうやら無用のようです」
ほどなくしてダンジョンの外に出た。
どうやら、こちらが当たりのようだ。
「ミナ! ヴェルグ!」
「ちっ、速いな」
数十メートルほど先に二人の姿が。
ミナとヴェルグは、こちらを見て焦りを含んだ表情に変わり……
「……なんだ?」
一瞬ではあるが、ヴェルグは笑ったような気がした。
これでいい。
そう言っているかのようだった。
「レインさん!」
「わかっている! サクラ、いくぞ!」
「オンッ!」
今は細かいことを考えているヒマはない。
俺とエリスは、共に抜剣。
サクラは四肢をしっかりと大地につけて、いつでも飛びかかれる体勢を取る。
「ミナっ、おとなしく投降しろ!」
「私の話を聞いていただけるのなら、それも検討いたしましょう」
「話を聞くのはいい。でも、その前に変な真似ができないように拘束させてもらう。さっきの自分達の行動を忘れたわけじゃないよな?」
「あれは正当防衛です」
「なにをバカな……」
「……やはり、あなたのような者に私達の理想を理解することはできませんね。勇者ではなくて、ただのビーストテイマーなどに話をすることはありません」
「これだけの時間があったのに……なにも変わっていないのか、お前は!」
ミナとヴェルグも構えて……
元勇者パーティーとの戦闘が開始された。